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新司法試験に向けた学習方法に関する私見

今年の合格発表後、コメント欄でいろいろご質問をいただくことがあり、また最近不合格者の方と試験対策について直接お話しする機会があったことから、そこで述べた私見を中心に、再チャレンジに向けて気を付けたほうがよいと考えることについていくつか書きつけておくことにします。
最良の勉強方法は各人にとって異なりうるし、どのような答案が評価されているのかは試験委員でない以上推測するしかないので、僕の考えが正しいと言い張るつもりは全くないのですが、いちリベンジ者の感想として、何かしらの参考になれば幸いです。
*以下の内容は他の再チャレンジブログをいくつか読んだ感想を含んでいますが、特定のブログに記載された学習方法や答案を論難する趣旨ではなく、あくまで私見を述べているだけであることをお断りしておきます。


1.勉強計画は「時間」ではなく「内容」で管理すべき
本エントリを書くに先立ち、再チャレンジしている方のブログを検索でいくつか読んでみたのですが(みなさん頑張ってください!)、その中で「今週は○○時間勉強した」「毎日○○時間勉強する」といった目標が立てられているのが散見されました。個人的には、このような目標の立て方は自己満足に終わってしまうような気がして、お勧めできません。
当たり前のことですが、司法試験というのはある勉強時間に到達したら受かるというものではなく、合格水準の答案を作成できれば受かる試験です。そうであれば、勉強した時間を目標として立てるのは何ら意味がなくて、合格に必要な知識・技術を得るために何をすべきかという「勉強内容」を前提として、それをどれだけこなすかという観点から目標を立てるべきです。

僕の場合、年内にまとめノートを民法以外全科目作る(民法は類型別を中心に簡易なものを作っただけです…)ことと、所持している事例演習の問題集(民事法、憲法、行政法)を完成させること、短答の演習を一通り終えることを目的として、そのために10日で1科目のまとめを行うペースでまとめノートを作成すること、事例演習を1日最低1問解くこと、短答問題集を1日100問解くことがノルマとなり、まとめノートについては各科目の必要項目をだいたい10分して1日の作業目標が決まっていました。その他、勉強会がある場合、余裕のある日にその準備として過去問や指定教材を解く時間を作っていました(その日は事例演習を休んだりしている)。
この結果、思ったより早くノルマが終わったのでゆっくり気分転換した日もあれば、思ったより量が多かったので若干勉強量が多くなった日もありますが、概ね1日6~8時間の学習時間になっています。時間的には平均的受験生と比べて多いわけではないでしょうが、目的意識を持って勉強しているので、それなりには密度のある勉強ができていたとは思います。

2.答案で重要なことは「問題意識」を見せて、それに対応した規範と答えを立てること
答案作成方法について何事か講ずることができるような実力はないので恐縮ではありますが、これまた再チャレンジ者の再現答案をざっと見て、何となく気づいたのは、論点が唐突に出てきているなぁということです(全部読んでるわけではないので、すべての再現答案がそうだという趣旨ではありません)。

例えば、今年の刑事訴訟法の前半メイン論点は、明らかに別件逮捕です。この論点に気づいていない答案は一通もありません。しかし、別件逮捕がなぜ問題になるのかということがきちんと指摘できている答案は少なかったように思われます。なぜ別件逮捕が論点になっているのかと問われれば、すべての受験生は「重大な本件の逮捕勾留要件がないのに、軽微な別件で身体拘束して本件で取り調べをすることは、本件との関係で令状主義を潜脱するから」といった回答ができるはずです。こういった問題意識があってこそはじめて、問題文から事実を切り出して法的問題として論じる必要が出てくるはずなのに、ここを省略してしまうと、読み手としては「この受験生は論点主義だな」と思ってしまうのではないでしょうか。少なくとも、きちんと問題意識を書いている答案より印象は悪いはずです。
問題意識をきちんと書くことは、その後の論証が充実することにもつながります。別件逮捕の論点についても、上述のような問題意識を前提にして各種学説が展開されているわけで、それ抜きに帰結だけ書いても説得力はありません。

コメント欄でも書きましたが、論点について学習する際にも、こういった「問題意識」をきちんと押さえるように心がけて、それとの関係で判例や学説を理解するようにすれば、上記のような点をもれなく論じることができるようになると思います。その意味で、再チャレンジ者が安易に「論点集」のような知識補充に走るのは避けたほうがよいと考えます。そもそも、不合格答案の中で、論点が明らかに欠けているという答案はそんなになくて、論じている事項については合格水準の答案とそこまで違いはないのですから。

3.憲法で的を外さない答案を書くためのポイント
憲法の学習方法について質問を受ける機会が多いので、この点についても少しだけ書いておくことにします。もっとも、この点については宍戸先生の法セミの連載が単行本化された『憲法解釈論の応用と展開』が非常に示唆的ですので(個人的に興味があったので修習とは何ら関係がないのですが買って読んだのです)、そちらを読まれることをお勧めします。

今年の憲法では、グーグルストリートビューっぽいサービスの規制について、原告側に22条を前提とした構成を論じさせて低い評価を受けたのではないかという人が多かったようです。出題趣旨にもそのように書いてありますし、僕も問題をざっと読んだ感想として、原告で21条論をやらないのは筋が悪いのではないかと感じました(もちろん、これは試験を受けていない後付けの感想であって、ハードな本試験で適切な主張選択をすることが難しいということは承知しているつもりです)。

憲法の問題に回答する際のポイントは、出題方式に合わせて、原告の主張、被告の再反論という頭で法律構成を考え、問題の山場がどこかを見つけることだと思います。以下、この観点から今年の問題を少し見てみます。
今年の問題を読むと、原告のサービスは一応表現だけども、表現と評すべきメッセージ性があるわけではなく、便利な情報を提供する営利的行為のように感じられるところです。それで22条論を選択した人が多いのだとは思いますが、22条論を前提とした違憲審査基準では原告の勝ち目はかなり薄くなるところで、原告の立場であれば当然21条論を主張するはずです。被告は逆に、こんなサービスは表現と関係ないから22条論で処理すべきと考えるでしょう。そうなると、このあたりの評価が本問の山場なんだなぁということに思い至るはずです。
すると、原告の主張を組み立てる上で、どうして原告のサービスが表現といえるのかという説明が要になってくるのだろうと頭を働かせることになるわけですが、ここはかなり難しいところで、思想や意見ではなく情報の流通そのものが保護されるべき根拠について、何事かを書かなければいけません。僕も満足な回答は思いつきませんが(ジャスミン革命のように、ネットを通じた情報流通システムの存在が意見表明などの新しい可能性を基礎づけており、こうしたインフラを維持するためには、直接思想や意見に関係しない情報にも強い保護を与える必要があるといった議論を、長谷部先生がおっしゃる「表現の自由の公共財的性質」とか、表現の萎縮を防ぐという学説の問題意識を借りつつ論じるとかでしょうか…)、問題に気付いて何かを書こうとするだけで、評価が違ってくるはずです。知る権利に基づく主張はダメだという出題趣旨のコメントがあり、それはその通りなのですが、それでも22条論よりはずっとよい評価を受けているのではないでしょうか。
逆に、被告の見解や私見を論じる際には、上記立論の弱い部分をついて、21条論が成り立たず22条論になる、あるいは21条論だとしても思想・意見そのものでない情報流通に関しては保護の程度が弱くなるという主張(例えば、レペタ判決にあるような「憲法21条1項の規定の精神に照らして尊重されるべきである」という一段下げた評価)、または萎縮性の観点からして営利性の強いサービスは保護程度が落ちるという営利的表現の自由に関する議論をすることができます。これは、原告の議論が題意に即していればいるほど、書きやすくなるものです。敵が強いと盛り上がるということですね(司法試験に関して同じような感想を抱ける猛者はそうそういないでしょうけど)。

今年の憲法の問題はかなり難しい気がしており、それだけに勉強方針が揺らぐ方もいらっしゃるのではないかと思うのですが、上記からわかるとおり、若干無理筋で自説を展開すべき部分もあるものの、基本的な判例・学説の知識を押さえていれば、それなりの答案を書くことはできます。前にも憲法の学習方法として書きましたが、違憲審査基準の議論なども含めて、判例や学説を「道具」として使うという観点から、道具を仕込むための勉強をしていくというのでよろしいのではないでしょうか。
それら道具の位置づけや大まかな使い方は『憲法上の権利の作法』や『憲法解釈論の応用と展開』で説明されていますから、基本的な知識をつけた上でそれらの本を読み、事案を読んで原告・被告の頭で考えるという練習(過去問演習)を積めば、高得点ではないにしても、落ちない答案を確実に書くだけの力はつくと思います。


長い割にあまり示唆的でないコメントですが、最近の質問に接して思うところを書きました。
なんにせよ言えることは、司法試験の合格に必要なのは「膨大な知識」でもなければ(とはいえ学習すべき事項は決して少なくないですけど…)「最先端の学説知識」でもなく、みんなが知っているはずの内容をきちんと理解し、事案に即してうまく展開するということだけです。もちろんこれだって「だけです」というほど容易ではないので、その能力をつけるために勉強を積み重ねる必要はあるのですが、そのための勉強方針は自分で考えてしっかり固めるべきだし、それは「何時間勉強した」という形式で振り返られるべきではなく、「今日は何を学んだか」という実質によって反省されるべきものだと思います。

以上、皆さまのご健闘を心よりお祈りして、本稿を閉じさせていただきます。
ここは受験対策ブログではないので、たぶん今後こういう文章を書くことはないと思いますが、ご質問などあれば可能な範囲で従前同様お答えさせていただきます。
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眠れる豚

Author:眠れる豚
名前:眠れる豚
2009年度新司法試験で討ち死にしてしまったため、再チャレンジのために淡々と勉強してきた法務博士(無職)。2010年の試験では何とか合格することができました。

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