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再現答案4(刑事系第1問・刑法)

3日目午後の刑事系です。昨年は悲惨すぎる点を取った、個人的に鬼門の科目。
まずは第1問の刑法から。

*できる限り正確に再現していますが、後日再現したため、文章表現については本試験より整理・美化されていることは否めませんのでその点は割り引いてください。答案構成や事実の摘示評価内容、法律論の内容については本番を正確に再現したつもりです
*追記部分に反省点を書いていますが、解説や基本書などを見て書いたわけではないので、間違っているかもしれません。参考にされる方がいるとしたら注意してください


――――――――
刑事系科目第1問 刑法
問題文


第1 甲の責任
 1 甲に成立しうる罪責
  (1) 甲は直接Vに対する加害行為をしていないから、Vの死亡について作為犯としての責任は負わない。
    しかし、甲はVの妻であり、後述するようにVの生命を保護すべき保証人的地位にあったといえるにもかかわらず、Vの容態変化を医療関係者に伝えず、これによりVは治療を受けず死亡している。このように、不作為によりVの死亡に関与したことについて、甲には保護責任者遺棄致死罪(刑法218条)ないし不作為による殺人罪(199条)が成立しうる。
  (2) 上記犯罪についての法的問題
   ア 不作為殺人罪の成立要件
     まず、「人を殺した」という作為犯として規定された殺人罪について不真正不作為犯を認めることが罪刑法定主義の観点から認められるかが問題となるが、199条は人を死亡させることを禁じる規定であり、それが不作為によることを排除するものではないから、不真正不作為犯を認めることに問題はない。
     もっとも、無限定に不真正不作為犯を肯定することは処罰範囲を過度に拡張させてしまうため、作為犯と同視できるような要件を満たした上でのみ肯定されねばならない。具体的には、①自ら引き受け、あるいは条理等から引き受けるべき危険について排他的な支配を持ったことから生じる作為義務、②作為によって結果が回避できること(結果回避可能性)、③作為の容易性の3つが要件として求められると解する。
   イ 殺人罪と保護責任者遺棄致死罪の区別基準
     不作為殺人罪と保護責任者遺棄致死罪はともに不作為で人を死なせた場合に成立するから、その区別基準が問題となる。
     この点、両罪の保護責任の違いは区別し難いから、殺人の故意があるかどうかによって両罪を区別するべきであると考える。
 2 不作為行為の検討
  (1) 1時35分頃から2時までの間の行動
   ア 甲は、1時35分頃に病室に行き、1時50分頃にVの容態変化を認識したが、これを乙らに伝えず、2時に巡回に来た乙を部屋に入れないようにした。この点について、甲にいかなる罪が成立しうるか。
   イ 殺意の有無
     甲は、過去にVが同様の症状に陥った経験から、Vの容態変化が薬によるアレルギー反応によるもので、放置すると死亡するおそれがあることを認識していた。それにもかかわらず、介護への疲れや、Vの幸せのことを考え、Vが死亡することを認容した上で容態について病院側に知らせなかったのであるから、殺人について未必の故意が認められるとも思われる。
     しかし、他方で甲はVへの愛情や年金減少へのおそれから、Vが死亡することに対する否定的感情も有していたことが認められる。また、この時点ではVの容態変化を知らせるかどうか思い悩むにとどまり、Vに治療を受けさせないことを決意するには至っていないこと、この時点であればVはまだ助かるだろうと考えていること(事実6も参照)などからして、利益原則の見地からも、この時点では未だ殺意を認められないものと解すべきである。
   ウ 保護責任者遺棄致死罪の構成要件該当性
     甲は、入院中継続的にVの介護をしており、またVの妻として法律上も扶養義務を負っているから(民法877条1項)、Vを保護する責任のある者といえる。
     そして、甲は、病者であるVに治療を受けさせないことで、生存に必要な保護をしなかったものであり、これによりVは死亡するに至ったから、保護責任者遺棄致死罪の構成要件を全て充足する。
   エ 以上より、甲には保護責任者遺棄致死罪が成立する。
 (2) 2時以降の間の行動
ア その後甲は、Vの容態悪化を認識しつつ、なおもこれを乙らに伝えず、2時30分に巡回に訪れるはずの乙に虚偽記入した検温表を提示するなどして巡回をさせず(なお後述の通り、この点には犯罪は成立しない)、さらにVを置いてそのまま帰宅した。この点についていかなる罪責が成立しうるか。
  イ 殺意の有無
2時に乙が立ち去ってから、甲はVの容態悪化を認識した上で、今ならまだ助かると思いつつも、Vに治療を受けさせないことを決意し、Vの生死を運命に任せようと決意している。Vの病状が死亡する危険の高いものであるとの認識も踏まえれば、これはVの救命を放棄したものであり、Vが死亡してもよいという未必の殺意を認めるに十分である。
よって、甲は遅くとも、上記決意の上で検温表に虚偽記載をした2時15分以前の段階で、殺人の故意を有していたといえる。
  ウ 不作為殺人罪の成立要件
   (ア) まず①作為義務について見るに、甲は上記の通り保護責任者としての地位に基づきVの生命保護を引き受けた者であり、またVの容態変化を知っていたのは個室にいた甲だけであったから、Vの死亡への因果関係を排他的に支配していたといるから、保護の引受けに基づく排他的支配による作為義務が肯定される。
   (イ) 続いて②の結果回避可能性について、これは作為犯の因果関係と対応するものであるから、利益原則の見地より十中八九結果が回避できるといえなければならない。
      本件では、このような結果回避可能性が認められるのは2時20分までであり、それ以降はVの救命は確実とは言えず、この要件を満たさない。しかし、上述の通り、遅くとも2時15分までにはVは殺意を有しており、その段階でVの容態変化を乙らに伝えて速やかに救命することはできたから、それにより確実な結果回避はできたといえる。よって、結果回避可能性もあったといえる。
   (ウ) そして、Vの容態変化について乙ら医療関係者に伝え、救命措置をさせることは極めて容易であったから、③作為容易性も優に認められる。
  エ 以上より、甲には不作為の殺人罪が成立する。
3 また、甲は検温表に虚偽の記載をし、これを乙に提示しているが、この虚偽記載は私文書についての無形偽造にすぎないから、私文書偽造罪等(159条)は成立しない。
4 結論
(1) 以上より、甲にはVについての保護責任者遺棄致死罪(218条)と殺人罪(199条)が成立し、両罪は同じ主体に対して連続した意思決定に基づきされているから、包括一罪として前者が後者に吸収される。
(2) また、後述のように乙と丙にもVの死亡について過失犯が成立するから、これら罪との共犯関係が問題となりうるが、甲と乙丙の間には共謀はなく、また甲は乙丙の過失結果をいわば一方的に利用したにすぎず、乙丙の過失を促進したものではないから、共犯としての罪責は負わない。
第2 乙の責任
 1 乙に成立しうる犯罪
(1) 乙は、Vに対して殺意を有していたものではないが、E薬がVのアレルギーを引き起こすD薬と取り違えられていることに気づかないまま漫然とこれを点滴してVにアレルギーを引き起こし、また30分毎の巡回をせずにVの異常を察知しなかったため、Vは治療が遅れて死亡している。このような点について、Vには業務上過失致死罪(211条1項)が成立しうる。
(2) 過失とは結果の認識・予見可能性をいうものであるから、その成立には、主観的要件である結果の認識・予見可能性と、それを前提とした客観的要件としての結果回避義務違反が必要であると解する。以下、乙の各行為についてこれらの有無を検討する。
 2 D薬を投与した行為
  (1) 乙が取り違えに気づかないままD薬を乙に投与したことは、乙の業務としての行為であるが、この点に過失が認められるか。
(2) 予見可能性
 ア 結果の認識・予見可能性は、因果関係の基本的部分について要求されると解する。本件では、乙はVがD薬にアレルギー体質を持っていたことを失念していたとはいえ事前に確認はしていたし、一般的に薬がアレルギーや副作用により患者を死に至らしめる危険も有することは予想しうるといえるから、Vが誤った薬の投与で死亡するという基本的因果関係については予見しえたといえる。
 イ もっとも、本件では乙は薬剤師の丙を信用していたから、丙が誤った薬を交付しないものであることを前提に行動した乙について、薬の誤投与という事態を予見することはできず、またそのような危険を想定する義務はなかったとも考えうる。
     しかし、丙は薬剤師として薬の専門的知識を有しているとはいえ、単純な薬の取り違えについては専門性と関係なく生じうるから、丙への信用が合理的であったとしても、上記予見可能性が否定されるものではない。
  (3) 結果回避義務違反
そして乙は、ラベルを見れば処方と異なるD薬が渡されていることが分かったはずであるのに、薬と処方せんの写しを対照して確認するというA病院の規定を守らず、D薬を漫然とVに投与したのであるから、薬の取り違えによる危険を防ぐ義務に違反したといえる。
  (4) 以上より、乙には薬の投与行為について業務上過失致死罪が成立する。
3 巡回をしなかった点
 (1) 乙が甲の言葉により命令されていた巡回を怠ったことが、過失となるか。
(2) この点、巡回を怠ることでVの危険を察知できずにVを死なせるということの予見可能性が問題となる。
    本件では、乙はVの発熱や高齢などを理由にして医師Bから30分毎の巡回を命じられているから、これに違反すればVの容態変化を見逃してVの救命にかかわるということは予見しえたとも思われる。
    しかし、本件で乙が巡回をしなかったのは、Vの妻である甲に入室しなくてよいと言われ、また甲が虚偽記載された検温表を示して巡回不要と申し出たからである。甲は入院中継続的にVの介護をしており、乙は甲に対して何かあれば知らせるよう伝えており、甲もそのようにして乙に配慮してきている。このような甲の介護状況からして、乙としては、甲がVの容態変化を隠し、虚偽の検温表を示してまで救命措置を拒むことは想像しがたいし、またそのように甲を信じることは合理的といえる。
  (3) よって、乙が甲の言葉に従って巡回をしなかったことでVの容態変化を見逃すということについては予見可能性に欠け、あるいは甲にVの観察を委ねたことで結果回避義務は充足されたといえるから、巡回をしなかったことにつき過失は否定される。
4 結論
  以上より、乙には投薬について業務上過失致死罪(211条1項)が成立する。
これと、後述する丙の過失犯との共犯関係について、過失の共同正犯の成否が問題となる。この点、過失犯の規定も60条により修正されて共同正犯が認められるといえるし、過失行為を共同惹起することも十分考えられるから、過失の共同正犯は成立しうると考える。そして、本件でも、丙による薬の取り違えと、それをそのまま投与した乙の行為が相まってVが死亡しているから、過失の共同正犯が成立しているといえる。
よって、業務上過失致死罪は丙との共同正犯の関係に立つ。
第3 丙の罪責
 1 過失の成否
  (1) 丙についても、薬を取り違えたまま乙に渡した点について、業務上過失致死罪の成否が問題となる。なお、丙が業務上薬を渡していることに争いはない。
  (2) 予見可能性
    丙は薬剤師であり、その副作用やアレルギー作用のあることについて当然知っていたはずであるから、誤った薬を交付して投与されることで患者Vを死亡させることがあることは当然予見可能であった。丙がBの処方を信用してアレルギー体質などについて確認しなかったことはこれを左右するものではないし、本件では一般にD薬にアレルギーを持つ者に対して代用されるE薬が処方されていたのであるから、専門家たる薬剤師としてはアレルギーのあることを当然に予見すべきであったといえる。   
  また、薬の取り違えが起こる可能性についても、薬の補充は必ずしも薬に通じていないA病院関係者が行うものであって作業ミスの可能性は十分考えられるし、特にD薬とE薬は同じ解熱消炎剤でありアンプルの外観もほぼ同じであるから、誤って混入される可能性は高く、両薬の特徴などを知っていた丙はその取り違えについても十分予見しえたと考えられる。
(3) 結果回避義務違反
  しかるに、丙はBにVのアレルギー体質などをチェックする義務を怠り、取り違えでアレルギーが起こる可能性について特に意識することないまま、アンプルの薬名を確認することなくD薬を乙に交付している。このように、然るべきチェックやラベルの確認を怠った点に、結果回避義務違反が認められる。
 2 結論
   以上より、丙には業務上過失致死罪が成立し、前述の通りこれは乙との共同正犯となる(60条,211条1項)。
以 上


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再現答案3(選択科目・知的財産法)

2日目午前中の選択科目の再現です。知的財産法を選択しています。


*できる限り正確に再現していますが、後日再現したため、文章表現については本試験より整理・美化されていることは否めませんのでその点は割り引いてください。答案構成や事実の摘示評価内容、法律論の内容については本番を正確に再現したつもりです
*追記部分に反省点を書いていますが、解説や基本書などを見て書いたわけではないので、間違っているかもしれません。参考にされる方がいるとしたら注意してください


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選択科目 知的財産法
問題文

第1問(特許法)

[設問1]
1 (1) 甲は、α発明に係る特許権を乙と共有しており、これを単独行使できる(特許法73条2項)。よって、甲は特許権者として単独で丙に対して差止めを請求できる(100条1項)。
    もっとも、丙のイ号製品はα発明の構成要件のうちBの部分をb´に置換しており、Bを充足していないから、甲の特許を文言上侵害していない。よって、甲は丙に対して文言侵害を理由として差止請求をすることはできない。
  (2) 均等論
   ア しかし、特許出願時に全ての侵害態様を予測して構成要件をクレームすることは不可能であるし、もし特許構成要件の一部を置換することで特許発明を実施することが全て認められてしまうと、特許権者が害されて特許への意欲が損なわれ、産業の発達という特許法の目的(1条)に反する結果になる。
     そこで、構成要件の一部を置換して文言侵害を免れた実施についても、置換後の構成が実質的に特許発明と同視でき、権利を及ぼしてよいといえる範囲については、均等侵害としてなお特許権の効力が及ぶと解すべきである。
   イ 具体的には、次の5要件を満たす必要があると考える。すなわち、均等侵害は、①置換部分が発明の本質的部分ではなく(特許発明との同一性を認めるため)、②置換によって同一の作用効果を生じ目的を達成することができ(同上)、③当該置換が当業者にとって公知・容易想到であること(そのようなものであれば権利を及ぼしてよいから)、④置換後の構成が公知・容易推考でないこと(公知・容易推考の実施はそもそも誰も特許権を及ぼせないから)、⑤出願時に当該置換を除外したなど特段の事情がないことを要件として成立する。
2 本件で均等侵害が成立するか
(1) そこで以上の要件について検討する。まず、①本質的部分以外が置換されているかについては、α発明の構成要件A~Cのうち、BとCをそれぞれ置換したイ号製品とロ号製品はα発明と同一の作用効果を生じているから、α発明の本質的部分は残るAにあると考えられる。よって、Aを置換していないイ号製品は①要件を満たす。
また、②を満たすことは明らかであり、③も戊の出願によりイ号製品製造時に置換は公知となっていたといえるから充足し、⑤を満たさない特段の事情も見当たらない。
 (2) では、④要件はどうか。本問では、置換後の構成はα発明の出願時には非公知等を満たすが、その後戊の出願に係る出願公開によって公知となり、侵害時には要件を満たしていない。そこで、④要件がいつの時点で要求されるかが問題となる。
   この点、④要件は、公知・容易推考の構成についてはそもそも特許を受けられなかったのであるから、そこに権利を及ぼし侵害を主張することを排除するために要求されている。これによれば、同要件は権利を得ようとした特許出願時に存在すればよいと解すべきである。したがって、戊の出願公開に先立つ2005年2月3日に出願がされている本件では、④要件を充足するため、丙の実施行為は①~⑤要件を全て充足し、均等侵害が成立する。
 (3) もっとも、本件では戊の出願公開は甲らの出願に遅れているものの、出願自体は甲らの出願に先立つ2003年10月6日にされており、これが認められると、甲らは後願となるため、置換後の構成については戊が特許を受けることになる(39条1項)。すると、甲らはそもそもイ号製品の実施について権利を有さないとも考えられる。
   しかし、本件では未だ戊は特許権の設定登録を受けておらず、特許権は生じていない(66条1項)。よって、甲は現時点では置換後の部分にも権利を主張できると解する。戊との関係では、その後戊が特許を受けた後に不当利得等(民法703条)で調整することになる。
3 以上より、甲の差止請求は認められる。
[設問2]
1 本問でも、文言侵害はないから、均等侵害の成否が問題となる。設問1と同様、①②⑤要件は充足し、Cをc´に置換することが容易でなかったから出願時に④要件は満たしていたといえるが、③要件の充足は認められるか。以下検討する。
2 ③要件を充足するか
 (1) 本問では、③要件はどの時点で必要とされるかが問題となる。この点、③要件は、公知・容易想到な置換行為であれば権利を及ぼしてもよいと考えられること、逆に言えばそうでない置換行為は独立に特許を受けうるとして保護されるべきといえることを理由に要求されているから、その充足は侵害時に判断するものと解される。
 (2) これによれば、侵害時点で要件を充足していた丙の実施については、③要件を満たさないため、均等侵害は成立しないから差止請求できない。
   一方、丁の実施については、丙のロ号製品の解析によって置換された構成を容易に知ることができたから、実施時点で置換行為は公知になっていたといえ、③要件を満たすように思える。しかし、前記の趣旨からは、そもそも置換が公知でなかったということは、当初からα発明は置換部分を特許の範囲に含んでいなかったといえるから、甲は丁にも権利を主張できないと考える。これは設問1の結論と矛盾するようにも見えるが、設問1では出願時には先願者戊の特許が成立していないから未だ甲の権利が認められるのに対して、本問では出願時から置換部分が公知でなく元々特許範囲外といえるから、本問で甲が権利主張できないのはやむをえない。
 (3) よって、甲は丙・丁のいずれにも差止請求ができない。
[設問3]
1 設問前段について
 (1) 丁の実施行為は、発明αの一部を置き換えたものの製造であり、均等侵害として甲の権利を侵害している。これによれば、甲の差止請求は認められそうである。
 (2) しかし、丁は乙の依頼により、乙のために製品を製造し、全量を乙に納入している。乙は共有特許権者として、別段の定めがない限り特許を単独実施できる(73条2項)。そして、丁は前記の通り、いわば乙の機関として発明を実施しているから、丁は乙と同視できる。
   よって、丁の実施行為は特許実施権を有する乙による実施と同視できるから、甲は丁に差止請求をすることができない。
2 設問後段について
一方、甲と乙の間で、甲のみがα発明の実施をできると定めた場合、73条2項の「別段の定」があったものといえ、乙は単独での実施権を有さない。
  したがって、乙の機関である丁も実施が許されないから、甲の丁に対する差止請求は認められる。
以 上


第2問(著作権法)

[設問1]
1 著作権に基づく請求
 (1) Aに認められる権利
  ア αプログラムの著作者
    Aは従業員のCにαプログラムを作成させている。著作権は著作者に認められるから(著作権法21条以下参照)、AがBに請求する前提として、Aがαプログラムの著作者と認められる必要がある。そこで、15条2項の適用があるか検討する。
    本件では、プログラム著作物(10条1項9号)であるαプログラムは、AB間の本件契約に基づく法人Aの業務として、その発意に基づいて従業員のCが作成したものであり、Cに著作権を留保する特段の定めもないから、職務著作としてAが著作者となる(15条2項)。
  イ 本件契約で著作権をBに譲渡したことの評価
    Aは本件契約で、αプログラムの全ての著作権をBが有する旨合意し、Bに著作権を譲渡している。しかし、翻案権及び二次的著作物の権利(27,28条)については、譲渡目的として特掲されていない限り、譲渡者に留保されていたものと推定される(61条2項)。よって、譲渡対象を「すべての著作権」とし、上記特掲をしていない本件においては、Aに翻案権が留保される。
    よって、以下では翻案権侵害の成否について検討する。
 (2) 翻案権侵害の成否
  ア Eの改変行為が27条の翻案権侵害にあたるか。ここで、翻案とは「既存の著作物に依拠しつつ、その表現上の本質的特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に増減・修正・変更等を加え、新たに思想感情を創作的に表現することにより、既存の著作物の表現上の本質的特徴を直接感得できる別の著作物を創作すること」をいうが、Bは、αプログラムに依拠しつつ、これを改変により修正等することで、元々の物質解析器用の機能を向上させた別のプログラムを作成したから、上記定義に当てはまる。
    よって、Eがした改変は翻案にあたり、Aの翻案権を侵害している。
  イ そして、Eの上記行為は、β製品の製造販売という法人Bの業務のため、Bの発意に基づき、従業員であるEがBの職務として行ったものであるから、βプログラムはBの職務著作となり(15条2項)、Bは上記翻案権侵害の主体として責任を負うことになる。
 (3) 請求できる内容
以上の翻案権侵害に基づき、Aは損害賠償請求(民法709条。著作権法114条など参照。ただし二次的著作物の権利は原著作物の創作性の範囲にしか認められないと解する)と差止請求(112条)をすることができる。差止めの内容としては、製品販売の差止めのほか、112条2項よりプログラムβの消去等を命じることが考えられる。
2 著作者人格権に基づく請求
 (1) 同一性保持権
   Aは、翻案により意に反してαプログラムが変更されたとして、20条1項の同一性保持権を主張できる。なお、Aは法人であるが、著作権法上、法人でも著作者人格権を主張するに妨げはない。
   もっとも、本件のようなプログラム著作物の改変については、効果的な利用のための改変行為は「必要な改変」として20条2項3号より許容されている。これによれば本件でも機能向上のための改変として免責されるとも考えられるが、同項の趣旨は著作物の利用者の自由を保障するところにあり、製品販売により利益をあげるための改変までを「必要な改変」として保障することは、著作者を不当に害することからも、同項の想定外と解される。よって、本件では同項による免責は認められない。
 (2) 氏名表示権
   Aは、氏名表示権(19条1項)に基づき、βプログラムに自己の氏名を表示するよう請求することも考えられる。
   しかし、Aは本件契約でBを著作者として表示することに同意している。著作者人格権も経済的利益のため譲渡できることから、Aは氏名表示権を譲渡しており、もはやBに対して主張できない。
 (3) 以上より、Aは同一性保持権侵害に基づき、著作権侵害と同様に損害賠償請求及び差止請求をすることができる。
[設問2]
1 差止請求の根拠
 (1) 著作権に基づく請求
本件では、Fは翻案権侵害により制作されたβ製品を購入しているが、翻案行為自体は行っていない。そこで、かかるFに差止請求をするには、Fについて113条2項のみなし侵害が成立する旨を示す必要がある。
   具体的には、Fがβ製品をBから購入した時点で、β製品の中のβプログラムがAの翻案権を侵害して作成されたことについて「情を知って」いたことを示す必要がある。これは、FがBの子会社であってBと密接な関係にあることや、Bがβ製品を作成した目的の中にFの業務に使用することが含まれていたことなどを主張立証することで示すことになる。
 (2) 同一性保持権に基づく請求
   同一性保持権侵害についても、113条3項3号により、「情を知って」所持しているといえれば差止請求をすることができる。
2 差止請求の内容
 (1) 差止請求のためには、その内容を特定しなければならない。本件では、112条2項により、侵害により作成されたβプログラムの消去を請求することが考えられる。
 (2) ここで、同一性保持権に基づく請求については、B従業員のEによる改変時点で侵害行為が終了しているから、もはや差止めはできないのではないかとも思われる。しかし、みなし侵害が成立しており、また親子会社として侵害者Bと密接な関係にあるFについては、侵害者と同様の責任を認めてよいといえるから、差止めは許されると解する。
[設問3]
1 Dは、α製品を購入した上、αプログラムの著作権を譲り受けたBに無断で希望者に賃貸している。これは、αプログラムを貸与によって不特定多数の公衆に提供する行為であり、Bの貸与権(26条の3)を侵害している。
2 貸与権の消尽の成否
 (1) これに対するDの反論としては、DはBからα製品を購入し、Bはその対価を受けているのであるから、その時点で貸与権も消尽する(26条の2第2項類推)というものが考えられる。では、かかる消尽規定の類推は認められるか。
 (2) 著作権法が譲渡権の消尽を認めるのは、①一旦譲渡された場合には著作権者は対価を得ており、それ以上の二重利得を得させる必要はなく、②他方で著作権が消尽しないと取引の安全が害されるということに理由がある。
   では、貸与にこれら理由が当てはまるか。①については、貸与では潜在的需要者に対して著作物を複数回提供することになり、著作者を害する程度が大きいといえる。本件でも、α製品は物質分析器であり、一時的使用の需要も少なくないと考えられるから、貸与によってこれらの者への販売機会が不当に奪われるといえる。また②についても、貸与の場合は著作物は最終的に返還されて貸与者に戻るので転々流通せず、取引の安全を図る必要性は薄い。
   以上より、貸与権に消尽の根拠は当てはまらないから、26条の3第2項の類推による消尽を認めることはできない。
3 以上より、BはDに対して貸与権侵害に基づく損害賠償請求(民法709条)や差止請求(112条)をすることができる。
以 上


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再現答案2(民事系第2問・民法、民訴法)

前回に引き続いて民事大大問です。今回の試験で一番悔いの残る科目でした。後半の崩れ方は、再現していて萎えそうになりました。もっとも、昨年の大大問は設問1から終わっていたので、それよりは何とかなっていると信じたいです。


*できる限り正確に再現していますが、後日再現したため、文章表現については本試験より整理・美化されていることは否めませんのでその点は割り引いてください。答案構成や事実の摘示評価内容、法律論の内容については本番を正確に再現したつもりです
*追記部分に反省点を書いていますが、解説や基本書などを見て書いたわけではないので、間違っているかもしれません。参考にされる方がいるとしたら注意してください


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民事系科目第2問 民法(設問1,2,5)、民訴法(設問3,4)
問題文


[設問1]
1 Fのした主張の法的構成について
  Fは、AからCに金額に限度のない代理権が授与されたという主張と、1500万円を限度とする代理権の授与があった主張とを選択的にしている。このうち前者は2000万円の借り入れについて有権代理(民法99条1項)が成立しているという主張であり、後者は1500万円の代理権授与を前提として権限外の行為の表見代理による責任(110条)が生じるという主張である。
  以下、これを前提に、それぞれの主張との関係で各事実が持つ法律上の意義を説明する。
2 事実①の法律上の意義
 (1) 有権代理構成との関係
   事実①は、契約に先立つ代理権授与の存在という抗弁事実を構成するものである。以下、理由を詳述する。
   有権代理(99条1項)は、代理人が「権限内」でした意思表示を本人に帰属させるものであるから、本人から代理人に代理権が授与されなければ成立しない。そして、この代理権は、代理人が相手方に意思表示をする時点で授与されていなければならないから、契約に先立って代理権が授与されたことが有権代理の要件事実となる。
   ここで、事実①は、本人であるAが、CF間の契約締結に先立つ3月14日に、「Cに(従前合意していた融資について)話してあるから、あとはCと進めてほしい」旨述べたというものであり、これは融資契約についてCに代理権を授与したというAの意思表示といえるから、前記で見た先立つ代理権授与の存在を示すものとして、抗弁事実の一部をなすことになる。
   なお、後述のように、事実①のAの発言は直ちに無制限の代理権授与を意味しないとも思われるが、この点については本人Aの否認により争われることになる。
 (2) 110条の表見代理との関係
  ア 基本代理権としての意味
    事実①は、Cが110条の主張をする上では、基本代理権の存在という抗弁事実を構成するものである。以下、理由を詳述する。
    110条の表見代理は、その成立の基礎として、基本代理権の存在が要求される。110条が本人に責任を認めるのは、代理権の授与があった場合にその範囲を超えた代理行為が行われた場合に、授与された代理権を信用した相手方を保護するためであり、その反面として本人には基本となる代理権を授与したという帰責要素が要求されるからである。これは、110条が「権限外」の行為と定め、基本となる権限が存在していることを前提とすることからも裏付けられる。
    ここで、事実①は、前記の通り、AがCに対して代理権を授与した旨述べるものであるから、かかる基本代理権が存在していたことを示すものとして、抗弁事実の一部をなすことになる。
  イ 「正当な理由」を争う評価障害事実
    一方、事実①は、110条の要件である、権限を信じた「正当な理由」を争うための再抗弁を構成する意味も有する。
    110条は、表見代理の成立要件として、相手方が代理権の権限を信じたことについての「正当な理由」、すなわち無過失を要求している。これは法的評価であるから、実際に主要事実とされるのは、無過失を根拠付け、あるいは否定する個々の事実である。そして、表見代理を主張された本人Aは、Fの無過失を否定する評価障害事実を主張することで、同要件を覆して表見代理の責任を免れることができる。
    ここで、事実①は、Aが「交渉の経過」を前提としてCに説明をしており、Cはそれを理解したうえで交渉に向かう旨述べたものである。本件での交渉経過は、FがAに1500万円を融資するというものであり(事実3)、ここからすると、Aの上記発言は1500万円の借り入れに代理権が限定されていることを明示したものといえる。そして、事実①は、かかる発言を相手方であるFが認識していたということを示すから、Fが代理権の限界について知っていたことを示すものとして、Fの悪意ないし有過失を裏付ける根拠障害事実となる。
3 事実②の法律上の意義
 (1) 有権代理構成との関係
事実②は、有権代理の主張との関係では、特段の意味を有しない。有権代理は先立つ代理権授与があれば成立するから、事後に代理権の存在について当事者が疑問を抱いたなどの事情があってもその効果は左右されないからである。
 (2) 110条の表見代理との関係
   一方、110条の主張との関係では、事実②は「正当な理由」の評価根拠事実としての意味を持つ。
代理権についての無過失は、代理権が存在することについて疑問を抱くべきであったかという注意・予見義務と、それに基づく調査・回避義務によって判断されることになる。ここで、事実②は、Cが事前の予定と異なる2000万円の融資を申し込んできたことから、Fが念のためAに確認を取ろうとしたというものであり、Cの行為に対応した相応の注意に基づき、確認をしたということで、注意義務及び調査義務の遵守を裏付けるものであるから、Fの無過失を根拠付ける。
なお、事実②のうち、Aに電話がつながらなかった点については、十分調査ができなかったことを意味するから、それにもかかわらず契約したとして調査義務違反を示すものとも解しうるが、本件ではその後A方への連絡もされ、妻のDから確認を受けているから、この評価は成り立ち難い。
[設問2]
1 小問(1)について
 (1) 登記がされていないことの評価
  ア Eからは、抵当権設定契約が物権契約であることから、登記がその成立要件であり、抵当権設定登記がない乙・丙の物件についてはそもそも抵当権が成立していないとの反論がありうる。
  イ しかし、物権契約というだけで登記が成立要件になるものではない。369条は「債務の担保に供した」ことをもって抵当権の成立を認めているし、同じ物権契約である質権についても、登記は成立要件ではない(動産については引渡しが対抗要件。344条)。よって、かかる反論は成り立たず、Fは契約に基づいて乙・丙への抵当権を主張できる。
 (2) 乙・丙のほかに甲土地への抵当権が設定されていることの評価
  ア 次に考えられる反論は、Fは乙・丙のほかに甲土地に抵当権を設定しており、それにより被担保債権が保証されているといえるから、乙・丙物件の価値が毀損されたとしても甲土地で満足できる場合にはFには損害はないというものである。
  イ 確かに、抵当権は被担保債権の保証のため設定されるものであるから、(本件では甲土地の評価額が明らかでないのでこの点明確でないが)他の抵当物件により弁済が保証されているといえれば、その他の抵当物件が失われても損害はないという考え方もありうる。
    しかし、抵当権者はどの抵当物件にかかっていくかについても自由が保障されており、甲~丙について共同抵当が設定されたことも当然それを前提としている。本件の被担保債権は利息が年12%、遅延損害金が年20%と相当の割合で設定されており、被担保債権が拡大する可能性もあること、甲物件の評価額も変動しうることからも、本件で甲土地以外に乙・丙物件の抵当権を実施できることへの期待・権利は保護されるべきである。
    よって、甲土地抵当権の存在によってもFの損害は否定されず、Eの反論は成り立たない。
 (3) 被担保債権の弁済期が到来しておらず、また乙土地抵当権は残存している点の評価
  ア Eの反論として他にありうるものとしては、Fの被担保債権は弁済期が第1回が平成20年3月15日であり、丙建物を取り壊した平成19年8月19日時点で弁済期が到来していないから、乙土地についてEは抵当権を行使できず、また抵当権をEに主張できる地位にも変化はないから、乙土地については抵当権侵害を観念できないというものがある。
  イ この点、抵当権は非占有担保物権であるから(369条1項参照)、弁済期が到来していない段階で抵当権設定者が所有権を移転し、または利用することは妨げられない。よって、原則としてEの言うとおり、弁済期未到来の現時点では、Eの行為は抵当権侵害を構成しない。
    しかし、将来の抵当権行使が困難になったという事情があり、それが抵当権者を害する意図でされた場合には、抵当権者の債権回収可能性について損害を観念することはでき、また抵当物件の利用が制限されてもやむをえないといえるから、この場合には弁済期前の抵当権侵害を認めることができると解する。
    本件では、EはAから乙・丙の所有権を譲渡されて有効に所有権を取得し、それに基づいて乙土地を利用しようとしているから、名目的に賃借を受けるような場合と異なり、それ自体は直ちに抵当権実行を困難にするものではない。しかし、EはFによる抵当権の存在を知りながら、自己の居住用建物を建築するため、抵当権設定のある丙建物を取り壊して乙土地を利用しようとしており、Fの権利を無視しようとする意思が現実に現れている。このような場合には、将来Fが抵当権を実施しようとする際にEがFの抵当権の存在を争い、速やかな抵当権実施が困難になることや、それに伴い評価額が下がることが強く予想される。そして、Eはこれらについて認識した上で乙土地の利用を始めているから、上記の要件を満たし、抵当権侵害が認められる。
  ウ よって、この点でも抵当権の侵害は否定されない。
2 小問(2)について
 (1) 登記の不存在と抵当権の効力との関係
上で見たとおり、登記の存在は抵当権の効力要件ではないから、登記がなくても「他人の権利」の侵害は認められる。
 (2) 対抗要件の欠如の問題
  ア Eの反論として考えられるのは、Fは丙建物の抵当権設定登記を経ておらず、丙建物の所有権移転登記を得ているEに対して抵当権の存在を対抗できない(177条)から、抵当権侵害に基づく損害賠償請求もまたなしえないというものである。
本件ではFの所有権とEの抵当権は両立しうるから、二重譲渡のような典型事例とは異なるが、抵当権の有効な存在を所有者に対抗し、それに基づく権利侵害を主張できるかという問題であるから、177条の適用には問題がない。
  イ 背信的悪意者の再抗弁
(ア) この反論に対しては、Eは背信的悪意者であり、Fに対して対抗要件の欠如を主張する資格に欠けるという再反論がありうる。すなわち、177条は物権関係の調整を図る規定であるところ、相手方の権利の存在について悪意であるばかりか、その権利を害して利益を得ようという背信性まで有する者については、そのような調整により保護すべき理由はないから、177条の「第三者」とは登記の欠缺を主張する正当な利益がある者を指し、背信的悪意者は177条の第三者として保護されないと解される。
(イ) では、Eはこのような背信的悪意者に当たるか。
   Eは、AF間の消費貸借契約や、そのために乙・丙物件に抵当権が付されたものの未だ登記がされていないことについて、平成19年4月頃に聞いており、さらに同7月の時点で登記が未了であることも知っていたから、Eの抵当権の存在について悪意といえる。
   そして、Eは、上記認識を前提としつつ、このような状況で乙土地及び丙建物の所有権を取得すれば、自己の住居を建築できると考え、そのような目的のために乙・丙物件を譲受け、所有権移転登記を経た上でCに確認等することなく丙建物を取り壊し、住居の建設に取り掛かろうとしたものである。これは、Eの登記不備に乗じて自分が住居建設の目的を達しようとしたものであり、Eの権利を害して利益を得ようとした背信性を認めるに十分な事情である。また、上記事情からすれば、所有権の移転自体はAの贈与の申出に端を発しているという事実も、背信行為の契機がAによったというだけのことで、背信性を左右するものとはいえない。
  ウ 以上より、Eの反論は成り立たない。
[設問3]
1 第2訴訟の被告の確定
 (1) まず前提として、第2訴訟の被告がEとGのいずれであるかが問題となる。当事者の確定について行動を基準とする見解によれば、本件では出頭していたGが被告であり、したがって訴訟行為は当然に有効となるとの帰結がありうるからである。
 (2) この点、訴訟当事者が誰であるかは、訴訟要件の判断から訴訟行為の規律、判決効の範囲に至るまで、訴訟全体を左右する重要なものであるから、その判断は訴訟当初から明確にされる必要がある。よって、行動を基準に当事者を確定する見解は、いかなる行動をもって当事者と見るかが不明確であって、支持できない。
   上記要請からは、訴状に表示された当事者名及び訴状記載の事実などから外形的客観的に被告を判断すべきと考える。これによれば、本件では被告は「E」と表示されており、訴訟物も乙土地・丙建物の所有者Eに対する損害賠償請求権であるから、被告はEといえる。
 (3) したがって、被告でないのに出頭していたGのした訴訟行為は無権代理であり、原則として無効とされることになる。
2 訴訟代理が認められるか
 (1) もっとも、本件では、EがGに対して「(訴訟を)任せる」と述べている。ここから、訴訟についてGに代理権が付与されたものとして、Gの訴訟行為は有効とならないか。
 (2) この点、訴訟については弁護士以外の代理は原則として禁止され(民訴法54条1項)、訴訟信託も禁止されている(信託法11条)ことから、Eが弁護士でないGに対して訴訟行為の代理権を付与することはできない。よって、Gの訴訟行為を有権代理として有効と認めることはできない。
3 民法109条の表見代理の成否
 (1) しかし、QはEの命を受けて出頭したGの訴訟行為を信頼し、これを前提として訴訟を追行している。このような場合に、民法109条の表見代理によりQを保護する余地はないか。GはEに訴訟を委ねられ、それに基づき出頭表に本人Eの氏名を記載して(署名代理)行動したから代理権表示があったと解しうるし、QはGが無権代理をしていたことを知らなかったから、民法109条の要件充足は認めうる。では、訴訟行為に民法109条の類推適用があるか。
 (2) この点、訴訟を他人に委ねた本人よりも、相手の行為を信用して訴訟を追行した者の方が保護されるべきであることや、無権代理として従前の訴訟行為を無効とすることは積み重ねた手続をふいにすることで訴訟の安定を害することから、民法109条の類推適用を認める見解もありうる。
   しかし、訴訟行為については、本人の裁判を受ける権利(憲法32条)が問題となっており、これを軽視するべきではない。特に、本件のような私人間の訴訟委任については、不実の登記に基づく表見代表取締役の訴訟行為のように、登記等で公示された権利に基づくものと異なり、そもそも訴訟代理権付与の外観がなく、表見代理類推の基礎に乏しい。それにもかかわらず表見代理を認めることは、上で見た弁護士代理原則や訴訟信託禁止の趣旨にも反する。
   そして、訴訟の安定という点からしても、相手方に表見代理の主張を認める場合、相手方は従前の訴訟経過が不利である場合には表見代理を主張せずやり直しを求め、有利な場合には表見代理による有効を主張するという選択が可能となるが、これは訴訟手続の効果が確定しない点で安定を著しく害するし、また相手方を不当に利することになる。
 (3) よって、民法109条の類推適用を認めるべきではないから、Gの訴訟行為はなお無効と考えられる。
4 信義則による無効主張の制限の可否
 (1) では、Gに一旦訴訟を委ねたEがGの訴訟行為を否定することが信義則(民訴法2条)に反するとして制限され、無効を主張できなくなると解する余地はないか。
   この点、そのような余地が完全に否定されることはないが、前記で見た本人保護や弁護士代理原則等の規定の存在からは、信義則により訴訟行為の無権代理が有効と認められる要件については厳格に解されねばならない。具体的には、訴訟行為を他人にさせることについて本人が積極的に関与し、相手方に信用を生ぜしめたといえ、かつ無権代理に基づく無効を認めることによって本人が不当に利益を得るという事情があってはじめて、信義則上無効を主張できなくなると解する。
 (2) これを本件について見るに、EはGの申出に対して「任せる」と発言はしているが、この時点では弁護士もついておらず、Gに訴訟を任せることの意味なども十分理解していなかったと見えるから、積極的にGの訴訟代理を望んだものとは解されない。Gは単なる同居人であって、本件訴訟に利害を有する者ではないし、無権代理が明らかになった後の第5回弁論期日では、Eは弁護士をつけた上でGの行為の無効を主張しているのであるから、EがGに訴訟をさせる積極的意思は見出せない。その他、EがGの代理権の有効性を作出するため働きかけた事情はない。
   また、本件でGの訴訟行為の無効を認めることで、Eが不当な利益を得るという事情も、本門からは見出せない。
 (3) 以上より、本件でEが信義則上Gの訴訟行為の無効を主張できないと解すべき事情は見当たらないから、Gの訴訟行為は無効であり、その効果がEに及ぶことはない。
[設問4]
1 小問(1)について
 (1) 法律構成①の検討
  ア 長所
    ①構成の最大の長所は、それが②構成と比べて原則の意思に沿う自然なものであるということである。通常、原告が自認部分についてわざわざ放棄という形で不利な効果を認めることは考え難い。例えば、1500万円の自認があった場合に、裁判所が1000万円の債務の存在を認めたという場合、②構成では1500万円の債務の存在につき既判力が生じてしまうが、500万円部分についてわざわざ不利な結果が生じることは原告の意思に反する。これに対して、①構成では、この場合に1000万円の債務の存在にのみ既判力が生じ、存在がなかったとされる500万円については確定されない。よって、こちらの方が法律構成としてより自然である。
    また、①構成は、既判力を説明するにあたって判決の効力であるとする点で、後述するように放棄による制限的既判力という不完全な効力しか認められない②構成より紛争解決力が高い。
  イ 短所
    ①構成の短所は、長所の裏返しとして、それが②構成に比べて被告に不利であるということである。被告としては、自認部分について遮断効が生じるほうが望ましいことはいうまでもない。
    また、①構成はいわゆる一部請求によって説明を試みているが、これは一部請求につき原告の明示の意思表示を求める判例理論に反する。判例では、一部請求が相手方の期待を害しうることから、その明示を求めるものであり、そこには支持すべき理由があるから、この点への配慮を欠くことには問題がある。さらに、一部請求の場合には訴訟物は請求した一部に限定されるところ、①構成は訴訟物が債務全体であると説明しており、この点でも問題がある。
 (2) 法律構成②の検討
  ア 長所
    一方、②構成では、訴訟物が債務全体であることを前提に、自認が一部放棄であるとして説明することにより、訴訟物についての前記の難点を免れることができる長所がある。
    また、自認部分について確定が保障されることで、被告にとって有利であり、その部分について直接審理する必要がないので裁判所の負担が軽減されるという利点もある。
  イ 短所
    しかし、②構成については、自認部分について生じる効果を請求の放棄(266条)で説明することから、その効果が既判力に比べて限定的であるという問題がある。すなわち、請求の放棄は確定判決と同一の効力を有すると定められてはいるが(267条)、放棄は当事者の意思表示に基礎を置く訴訟行為であり、判決と同視することはできないから、意思表示の瑕疵に基づく無効の主張を認めるという制限的既判力しか生じないと解される。よって、②構成で自認部分を確定したとしても、原告は自認について錯誤等があったとして再度争うことが可能となり、紛争が根本的に解決されない。
    そして何より、②構成は自認部分を請求と同時に一部放棄がされたとして説明するが、これは原告の通常の意思に沿わないし、266条1項が「口頭弁論等の期日」に独立した手続として放棄を定めていることとの関係で不自然である。以上を要するに、②構成は訴訟物が全体であることの説明について①構成より秀でるが、法律構成そのものの説明に問題が残ることになる。
2 小問(2)について
(1) 本問では、債務の不存在を前提とする抵当権設定登記抹消請求に対して、債務500万円の存在を前提とした、500万円の支払と抵当権設定登記抹消の引換給付判決を下すことが、原告の申立事項を超えて判決する246条違反になるかが問題となる。
(2) そこでまず前提として、第3訴訟の訴訟物について検討する。この点私は、一部存在を自認した上での債務不存在確認請求の訴訟物は、自認部分を超える部分の債務の存否にとどまると解する。自認部分について原告がわざわざ不利な判決効を及ぼされることを望むことは考えられないから、自認は単に審理対象の特定のためされていると解するのが原告の意思に沿うからである。
(3) 以上によれば、第3訴訟で全部棄却判決がされる場合、その既判力は先決部分である債務1500万円の不存在であることについて生じる。
  これに対して、本問のような引換給付判決では、その既判力は原告の500万円支払義務と、それと引換えにする抵当権抹消登記請求権の存在について生じる。これを全部棄却判決と比較すると、1500万円の債務不存在と500万円の支払義務では、現実の支払義務が生じる点で引換給付判決は原告に不利であるが、その反面として引換給付判決では抵当権抹消登記請求が可能になるという点で原告の意思に沿うものとなっている。また、債務の額についても原告が争っていた1500万円より小さいこと、抵当権抹消の要求に対して被担保債権の残存に基づく支払命令が出ることは請求時に予測可能であることから、判決は原告の予想した範囲内であるともいえる。
(4) 以上より、本問の判決は、原告の申し立てた範囲内でされるものといえるから、246条に反せず許される。
[設問5]
1 本件でAがした遺言は、Eが相続人であることを前提として、CとEの相続分について定めたものであるから、Eが相続人でない場合には効果を生じない。しかるに、本件ではEは認知手続をされていないから、認知準正(民法789条)が生じることはなく、EはAの子でない。したがって、Eは遺言により相続することはない。
2 よって、Aの債務はCが単独で相続し、HはCに対して全額を請求することになる。
以 上



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再現答案1(民事系第1問・商法)

先日、短答式試験の成績通知書が届きました。公法82、民事117、刑事74の合計273点で、順位は724位でした。昨年よりは上がりましたが、平凡な成績で、勉強不足だったなぁという感じです。なんだかんだいって条文読みなどの基本的作業を怠ってしまっていたのが結果に出た感じです。

今日からは、論文の答案を再現したものを載せた上で反省点などを書くことにします。出来がよかったわけではないのですが、今年の結果がどうであれ、早いうちに反省しておくことには意味があるだろうと考えてのことです。
とりあえず1日目の科目から順番にやっていきます。

*できる限り正確に再現していますが、後日再現したため、文章表現については本試験より整理・美化されていることは否めませんのでその点は割り引いてください。答案構成や事実の摘示評価内容、法律論の内容については本番を正確に再現したつもりです
*追記部分に反省点を書いていますが、解説や基本書などを見て書いたわけではないので、間違っているかもしれません。参考にされる方がいるとしたら注意してください


――――――――
民事系科目第1問 商法
問題文


[設問1]
1 Aの責任
(1) Aは発起人として、甲社設立に際して自己の所有する本件不動産を5億円であるとして現物出資し、その旨定款に記載している(会社法28条1号)。しかるに、本件不動産は土壌汚染のため実際には1億円の価値しかなく、出資額に4億円不足している。
(2) よって、Aは52条1項により、4億円の不足額について甲社に支払う責任を負担する。なお、Aは出資者本人であるから、免責の余地はない(同2項括弧書き参照)。
2 Bの責任
(1) 一方、Bは上記現物出資をしたものではないが、甲社の発起人であるから、現物出資財産の価額不足についてAと連帯して支払責任を負うことがありうる(52条1項)。
  では、Bに免責の余地はないか。本件では検査役の調査を経ていないから、52条2項2号に基づく免責があるかが問題となる。以下、同号に即して、BがAの現物出資を認めるに際して注意を怠らなかったといえるかどうか検討する。
(2) Bの注意懈怠の有無について
  この点、本件不動産は評価額として5億円という高い価値が付され、設立後会社の財産の大部分を占めることが予定されていた以上、発起人としてはその価値について十分注意して調査すべきであったというべきであり、この点でBには土壌汚染を看過した注意懈怠があるとも思われる。
  しかし、一般に土壌汚染は外観上明らかでなく、また通常想定し難い瑕疵である。本件でAは土壌汚染を知っていたが、そのことをBらに伝えた事実はなく、土壌汚染をうかがわせる事情も見られない。また、本件不動産の使途はスーパー店舗の建設であり、これとの関係で土壌汚染が直接問題となることは考えにくく、したがって通常土壌汚染を確認すべきともいえない。
  以上によれば、土壌汚染を予見ないし確認しなかったBが注意を怠ったということはできず、33条10項3号の規定に従い不動産鑑定士等の調査を経てこれを信用してAの現物出資を額面どおり受け入れたことについて、Bを責めるべき事情は他に見当たらない。
(3) 以上より、Bは52条2項2号により免責され、甲社に対しては責任を負わない。
[設問2]
1 払込みの効力
(1) 本件募集株式発行においては、割当てを受けた丙社は募集株式の払込期日に払込金額全額である1億円を払い込んでいる。これにより、形式的には出資は履行され、払込みの日に丙社は有効に甲社株主となったものと考えることができる(208条1項、209条1号)。
  しかし、払込みがされた1億円のうち9000万円は、丙社代表取締役と通じ合わせたAによって払込み翌日に甲社から引き出され、直ちに丙社に返還されている。このように、実質的には甲社に資金が確保されない、いわゆる見せ金の場合にも、払込みは有効といえるか。
(2) この点、208条1項は期日ないし期間内の払込みだけを出資履行として要求しているから、形式的に払込みがされればその有効性は否定されないとの見解もありうる。
  しかし、208条が出資の要件を定めるのは、対会社の権利を付与する株式の発行に際して、その対価としての財産を発行会社に確保させる趣旨であると解されるから、現実に財産が確保されたといえない場合、これを出資と認めるべきではない。これは、現物出資による場合に不足額についても会社に支払う責任が法定されていること(212条、213条参照)や、208条3項で払込債務の履行として対会社債権との相殺が禁じられ、現実の支払いが要求されていることからも裏付けられる。
したがって、208条1項の払込みの有無については実質的に評価されるべきである。そして、見せ金と疑われる場合については、払込み時点で甲社に現実に財産を得させるつもりがなかったことが認められ、かつ実際に払込みがされた後で資金が引き出され、甲社に財産が帰属していないといえるときには、払込み自体が無効であると解すべきである。
 (3) 本件についての評価
これを本件について見ると、まず本件募集株式発行は丙社の実質的一人株主であるAが提案し、当該新株発行を受けるための払込財産については、9000万円を丙社が丁銀行からの借り入れによってまかなうようAが丙社代表取締役Dに指示し、その通りにして1億円が払い込まれている。このように、発行当事者である甲社代表のAと丙社代表のDには密接な関係が認められる。
さらに、Aは丙社からの払込みを受けた後、株式発行に係る変更登記等の手続を終えた後で直ちに、上記借入額と付合する9000万円を甲社口座から引き出し、Dに交付した上、速やかに丁銀行に弁済させている。前記AD間の関係と合わせれば、これは払込前から9000万円について甲社に得させることを予定しておらず、一時的に借入金を用いて出資の形式を整えるとの合意があったと認められる。
そして、Aの上記引き出し行為により、甲社は払込みがされた翌日に9000万円を失っているから、この分について何らの財産も帰属しかったといえる。
(4) 以上より、甲社に対してされた1億円のうち9000万円の払込みについては、実質的に見て払込みがなされなかったものとして、無効となる。
2 無効な払込みに基づき発行された株式の効力
 (1) 上記の通り、本件で発行された新株のうち9000万円分に相当する900株については、有効な払込みを欠いている。このような場合に、株式の効力を認めることができるか。払込みの無効が株式発行の無効事由になるかが問題となる。
   会社法は株式発行の無効事由について定めていないから、この点は解釈に委ねられ、株式取引の安全や会社保護の要請などを考慮して個別に検討する必要がある。
 (2) では、払込無効についてどう考えるべきか。この点、払込みが無効であるということは、定められた価格に対して不足する額(あるいは無償)で株式が交付されたということであるから、有利発行について法定の手続を欠く場合と同視し、取引の安全のため無効事由にはならないという見解もありうるところである。
   しかし、払込みが無効であるということは、必要とされる出資がされなかったということであり、株主要件として209条が要求する208条1項の手続を怠っているのであるから、発行の承認を欠くにとどまる無断有利発行等の場合と同一視すべきではない。払込みの無効は、発行価額など株式発行の募集事項について定める取締役会の決議内容(201条1項、199条1項・2項)をも潜脱する点で、会社の意思・利益を著しく害するから、そのような場合にも株式を有効とすることは会社にとってあまりに酷である。
   また、取引の安全という点からも、払込みを経ていない株式はそもそも対価を経ずに得られた権利であって保護すべき実質を欠くから、これが無効とされてもやむを得ない。
 (3) 以上より、払込みが無効であることは株式発行の無効事由となるものと解する。よって、本件でも丙社が得た9000万円分の株式は無効であると考える(1000万円分については、丙社の資金による有効な払込があるから、無効とはならない)。
3 甲社に対する責任
 (1) Aの責任
  ア 423条に基づく責任
    Aは、甲社の取締役として、423条1項に基づく責任を負う。すなわち、Aは役員として善管注意義務・忠実義務(330条・民法644条、355条)を負うところ、Aが甲社の株式発行について見せ金を行い、9000万円を流出させたことは、これら義務に反する任務懈怠である。そして、これによって甲社は本来得るべき9000万円の財産を失うという損害を受けたから、Aは甲社に対して同額の損害賠償責任を負う。
  イ 212条の類推による責任
    Aは、見せ金により900株を払込みなく得た丙社の実質的支配者であり、見せ金もDと共謀していたから、丙と同視しうる。そして、見せ金で不当に株式を得た分については、その分無償という不公正な払込み金額で株式を得たことと同視しうるから、甲に対して212条1項1号を類推適用する余地があり、これによれば甲は通謀による不公正引受けの責任に基づき、9000万円の支払責任を負いうる。
  ウ 213条の類推による責任
    発行株式について有効に引受けを受けられなかったということは、現金出資に瑕疵があったという点で出資財産の価額不足と同視できるから、株式発行職務に関与した甲社取締役のAは213条の類推適用により不足額9000万円の責任を負いうる。
  エ 以上より、Aは上記いずれかの構成により、甲社に対して9000万を支払う責任を負う(もっとも、株式発行が無効であることから、発行を前提とするイとウの構成には無理があることは否めない)。
 (2) Bの責任
  ア Bも、甲社取締役として、本件募集株式発行について取締役会で賛成し、甲の上記行為を認めたことにつき任務懈怠が認められる場合、423条の責任を負う。そこで、乙にかかる任務懈怠が認められるかが問題となる。
  イ そこでこの点を検討するに、BはAの新株発行の提案について特に留保することなく賛成しており、その後も発行手続を甲に一任していることから、株式発行について十分注意を払わなかったものとして任務懈怠があるとも考えられる。
    しかし、本件募集株式発行は、事業の停滞を打開すべく店舗の改装を行うという合理的な課題を達成するため、乙銀行に融資を申し出、その融資を受ける条件として提示された資金を用立てるために計画されたというものであって、Aの紹介により丙社に相当対価で新株発行を行うという計画自体は自然なものであった。そして、Aが丙社と密接な関係にあるとしても、そこから直ちに見せ金が行われる危険性が認められるものではないから、AとDの通謀等につき認識がなかったBがこれを予見・注意すべきだったとはいえない。また、新株発行がAの紹介によりされている以上、その手続を代表取締役のAに委ねることも不合理ではない。
  ウ 以上より、Bには株式発行について任務懈怠は認められないから、甲社に対して責任を負うことはない。
 (3) 丙社の責任
   丙社はAと通謀した無効な払込みに基づいて900株を無償で得ているから、この分の対価である9000万円について212条1項1号(類推)に基づく不足額支払責任を負うとも考えられる。しかし、この株式は発行が無効であり、そもそも丙社は株式を取得していないのであるから、このような請求をすることは難しい。
    しかし、丙社は、一旦払い込んだ9000万円についてAと通じ合わせて引き出し、甲社に一旦払い込まれた財産を流出させて損害を与えているから、民法709条に基づく損害賠償責任を甲社に対して負う。
4 乙銀行に対する責任
 (1) Aの責任
  ア Aは、本件新株発行に際して見せ金により9000万円の財産を甲社から流出させ、もって甲社を破綻させることで乙銀行の債権を回収不能にするという間接損害を生じさせており、これについて429条1項に基づく責任を負う。
    すなわち、429条は、会社役員がその地位から会社経営を通じて他人に損害を与える可能性が大きいことに鑑みて設けられた法定責任を認めるものであり、任務懈怠と因果関係を有する損害について直接・間接を問わず損害賠償責任が認められるところ、Aは上記の通り見せ金により甲社に本来得るべき9000万円を得させず、そのため甲社は甲店の改装ができず破綻により乙銀行への1億円の弁済が不可能になったため、乙銀行に同額の間接損害が生じている。そして、Aは見せ金を通謀の上行っており、任務懈怠について悪意があるから、同条の要件を全て充足する。
  イ もっとも、本件では乙銀行も自身の判断で融資をしている。429条についても、公平の見地から民法722条の過失相殺が類推適用されると解されるから、乙銀行の過失により過失相殺があると考えることができないか。
    この点、本件ではAが計算書類や登記事項証明書(資料①②)を交付し、乙銀行はこれを信用して融資をしているが、これら資料は本件不動産の資産価値や現実に払込みを受けた金額について虚偽を含んでおり、Aはこれを知った上で乙銀行を欺罔するために資料を見せたといえる。これより、乙に過失を認めることはできず、過失相殺はされない。
  ウ よって、Aは乙銀行に対して回収不能額1億円の損害賠償責任を負う。
 (2) Bの責任
  ア Bも、Aと同様、取締役として乙銀行の間接損害について429条の責任を負いうる。そこで、Bに任務懈怠及びそれについての悪意重過失があったといえるかが問題となる。
  イ まず、新株発行についての任務懈怠が問題となりうるが、この点については前記の通り、Bには任務懈怠がない。
  ウ しかし、Bは、その後払込み無効により甲社が1000万円しか得られず、計画されていた店舗改装がされなかったことにつき、払込みの確保や別途の資金調達などの対策を何ら講じていない。計画が実現できなかった以上、払込みの有効性について当然疑問を抱くべきであったし、それについて口座を調査することは容易であったといえるから、Bは取締役として払込み無効を確認した上で、店舗改装等の事業改善措置を実現すべく行動すべきであった。
    にもかかわらずこれを怠って何ら行動せず、結果として甲社を破綻させたことについて、Bには少なくとも重過失が認められる。
  エ よって、Bは429条1項に基づき、乙銀行に対し1億円の損害賠償責任を負う。これはAとの連帯責任となる(430条)。
以 上



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眠れる豚

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2009年度新司法試験で討ち死にしてしまったため、再チャレンジのために淡々と勉強してきた法務博士(無職)。2010年の試験では何とか合格することができました。

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