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2009年新司法試験不合格答案再現(7.刑事系第2問:刑訴法)

これで答案再現は最後です。
貼るだけとはいえ、ちょっと時間を使ってしまったので、今日はこのくらいにして勉強することにします。9月中は基本書の読み直しで頭を回復させられればというところ。しかし昨日内田民法を1冊読んだところ「またこれを読むのかぁ」と萎えまくってしまいました。昨年のツケなのでしょうがないです。



4日目 刑事系第2問・刑訴法(100点)  問題

*得点:66.50/200(刑法含む)

〔設問1〕
1 捜索差押中の写真撮影の適法性判断基準
(1)写真撮影は、五感を用いて事物を認識するための一手段であるから、刑訴法上の検証(刑訴128条)に該当するものと考えられる。とすれば、捜査機関による検証は原則として裁判官の発する令状によらねばならず(218条)、本件の写真撮影はいずれも無令状でされているから違法になるとも思われる。
(2)ア この点、222条が準用する111条から、写真撮影が必要な処分として許されると解する見解もある。しかしながら、写真撮影が令状発付を要する強制処分だとすれば、これを「必要な処分」として可能とすることは強制処分法定主義に反することになり、支持できない。
 イ そこで、写真撮影は一律に強制処分とはいえず、任意処分として許容される場合があるものと考えるべきである。すなわち、強制処分とは①相手の意思を制圧して②重要な権利利益を侵害する行為であると解されるところ、これに当たらない程度の写真撮影であれば、任意処分として捜索差押えとともに行うことも許されると考える。
 もっとも、任意処分としても、何らかの法益を侵害することは否定できないから、比例原則の観点から無制限には行えないと解すべきである。具体的には、必要性、緊急性と被侵害利益を比較考量し、社会通念上相当といえない行為については、任意処分の限界を超えるものとして違法とされる。
(3)さらに、写真撮影の内容によっては、それが撮影対象の捜索差押えと同視できる場合が考えられる。この場合、強制処分たる捜索差押えとして捜索差押令状の範囲内でのみ許容される。捜索差押えと同視できるかどうかは、撮影対象の性質や撮影内容から、撮影対象が含む情報が取得され、差押え同様のプライバシー侵害がされたかどうかにより判断すべきである。
 また、この場合、令状の範囲内に形式的に含まれるだけではなく、個々の撮影行為につきその必要性と相当性が満たされなければならない。令状主義は処分時においても事件との関連性や処分の必要性・相当性について判断することを要求しており、令状審査もそれを前提としてされているからである。
2 写真①撮影の適法性
(1)写真①は、室内の壁面を撮影したものであるが、これは捜索を受けた者の黙示の意思に反しうるものの、捜索を受けている部屋の壁面を撮影するにすぎず、プライバシーの強度な制約とはいえないから、重大な権利利益の制約といえず、任意処分の範囲内である。
(2)そこで、任意処分として許容されるものであるかどうかにつき検討すると、以下の通りである。
ア 必要性について、写真①は「1/12△フトウ」と書かれた跡を撮影したものであるが、供述調書によれば、甲が1月11日に乙に電話し、「明日の夜(1月12日)、M埠頭でVを殺す」旨話しているとされ、この供述と壁面の跡は日付、場所(△にはMが入ると思われる)の点で一致する。そして、撮影対象が電話台の上の、カレンダーで隠れた壁に記された文字の跡であることを考えると、これは乙が甲の電話を受けて密かに覚え書きをしたものと強く疑われる。よって、事件との関連性があり、これを保存すべき必要性が肯定される。
イ 緊急性について、撮影対象には消し跡があり隠滅が図られているから、早急に保存しないと完全に消されてしまうおそれがあり、緊急に撮影すべき事情がある。
ウ 撮影による被侵害利益について、撮影は壁から30センチメートルの近距離からされており、文字の記載部分のみを撮影し、他の物が映らないよう配慮されているため、プライバシーの制約は低い。
(3)以上より、写真①の撮影は、高い必要性と緊急性が認められるのに比して、侵害される利益は小さく、社会通念上相当な行為といえるので、任意処分として適法である。
3 写真②撮影の適法性
(1)写真②は、Aが名義人であるX銀行の預金通帳につき表紙及び印字されている全てのページを撮影したものである。ここで、預金通帳は、その名義人のほか、印字されている預金額やその変動を情報内容とするものであるから、これを全て記録するような写真撮影は預金通帳の差押えと同視すべきである。
(2)ア そこで、この写真撮影が令状の範囲内であるかどうか検討すると、令状記載の差押対象には預金通帳が含まれており、令状の範囲内とも思われる。しかし、Bの発言や通帳の名義によれば、X銀行の通帳はAの所有物であるところ、場所に対する令状の効力が場所内にある他人の物にまで及ぶかが問題となる。
イ この点、差押えにおいて対象の明示が要求される(憲法35条)理由は、それにより捜査機関の権限濫用を防ぐ目的のほか、対象を明示した上で差押えの必要性や事件との関連性など「正当な理由」を判断することで不当な権利侵害を防げるということにあると解される。ここからすれば、捜索場所にある物についても、捜索場所を管理する者の管理権下にあれば、事件と関連する証拠が存在する蓋然性において同一であるといえ、令状の効力が及ぶと解せる。
 本件でのX銀行通帳は、乙が代表取締役として管理している会社の中にあり、乙のパスポート等が入っていたレターケース内に入っていたものであるから、捜索場所の管理者たる乙の管理権が及んでおり、令状の効力も及ぶ。
(3)そこで進んで、写真②の撮影が必要性、相当性を有するか検討すると、以下の通りである。
ア X銀行の通帳には、1月14日の取引欄に現金30万円の出金があり、その右横に「→T.K」と書き込みがある点に特徴があるところ、甲の供述調書によれば、甲は1月15日にVを殺害した報酬として乙から30万円を受け取っており、甲(甲野太郎)のイニシャルがT.Kであることからすると、金額の一致や書き込みとイニシャルの一致から、通帳の記載は乙が甲への報酬支払いの前日にこれを用立てるため出金したことをうかがわせ、事件との関連性が認められる。よって、差押えの必要性がある。
イ X銀行の通帳は現在も使用されているが、預金の出し入れについては不定期のものが多く、日常生活に用いているものとは見えないため、プライバシーの程度も高いものではなく、これを撮影することは相当といえる。
(4)以上より、写真②の撮影は、実質的に差押えであるが、その要件を具備しているため、適法である。
4 写真③撮影の適法性
(1)写真③も、預金通帳の表紙及び全部の印字部分を写真撮影したものであるから、実質的な差押えであり、また捜索差押令状の範囲内にある。
(2)そこで写真③の撮影の必要性と相当性を評価すると、以下の通りである。
ア Y銀行の通帳には、カードによる不定期の出金はあるものの、事件との関係で疑わしい記載はなく、書き込みなどの特徴も見られず、差押えの必要性は認めがたい。
イ 同通帳は、T社からの入金が定期的にあり、T社からの給与振込みと考えられるから、T社社員で通帳名義人であるAが使用する口座の通帳であると思われる。そして、電気代や水道代などの出金があるから日常的に使用する口座と思われ、その内容は生活態様などの高度なプライバシーに関わるから、これを差し押さえることは相当ではない。
(3)よって、写真③の撮影は、必要性・相当性を欠く差押えとして違法となる。
5 写真④撮影の適法性
(1)写真④はパスポート、名刺、はがき、印鑑などを名義の部分や刻印部分につき撮影したものであるが、これらの撮影物は名義を示した部分に重要な情報があり、当該部分の撮影は差押えと同視すべきである。
(2)そこでかかる差押えが認められるか検討すると、捜索差押許可状の差押対象にパスポートなどは含まれておらず、これらを「メモ」や「ノート」と捉えることもできない。
(3)よって、写真④の撮影は令状範囲外の差押えとして無効である。
〔設問2〕
1 (1)検察官は本件の実況見分調書を被告人の犯行可能性を示す立証趣旨として証拠調べ請求しているが、裁判所は検察官の立証趣旨に拘束されるものではなく、その実質的な事実との関係で証拠能力を判断すべきである。
 本件実況見分調書は司法警察員Pが実験結果を記載したものであり、321条3項の書面と思われるが、その実質は被告人による犯行再現として、弁護人の主張するように被告人の自白を内容とする部分が含まれると考えられる。そこで、以下①そもそも犯行再現が許されるか、②犯行再現の記録が実況見分調書となりうるか、③犯行再現の記録の証拠能力を認める要件、につき検討する。
(2)まず前提として、被告人に犯行再現をさせることが許されるか。犯行再現の強要は被告人の尊厳を無視するものであり許されないとの見解もある。しかし、任意である限り、かかる再現行為が違法とはいえない。
(3)では、被告人の犯行再現を記録したものが実況見分調書となりうるか。この点、そのような記録が321条3項の「検証」といえるかが問題となるが、再現方法などを被告人に指示し、再現の準備をした上で周囲の環境との関係で被告人の犯行再現状況を記録することは、捜査官がその専門知識に基づき調べた結果の記載といえるから、実況見分調書としての性質を有し、321条3項の適用を受ける。
(4)もっとも、犯行再現の記録が実況見分調書となる場合も、それは実質的には被告人が犯行につき供述し、自白している内容であるから、321条3項の要件だけで証拠能力を認めるべきでなく、自白につき規律する322条1項の要件も満たすことが求められると解すべきである。
2 (1)以上を前提に、本件実況見分調書の具体的な証拠能力を検討する。なお、調書の内容は可分であるから、その証拠能力は個々の記載ごとにその性質を判断して決するべきである。
(2)ア 調書のうち、岸壁から5メートル離れた地点に停止した車両を甲が指差している写真、人形を引きずっている場面の写真、運転席に入り操作をしている場面の写真と、それぞれの説明記載は、被告人が犯行態様につき説明し、被害者に見立てた人形を用いて犯行を再現した動作による供述といえるから、被告人の自白を内容とするものである。
イ 一方、車両が岸壁で止まっている場面の写真、甲が同車両の後部バンパーを持ち上げている写真、車両が海中に転落した場面の写真、車両底部の損傷箇所の写真と、それぞれの説明記載は、被告人が自動車を岸壁から持ち上げて落とすことができたこと及びその結果の客観的な状況を内容とするものであり、検察官の立証趣旨に反しない。
(3)よって、イの内容については検察官の立証趣旨通り、実況見分調書として321条3項の書面といえ、Pの尋問により真正な作成がされた旨の供述があれば証拠能力が認められる。
 他方、アの内容は、実質的に甲の自白として不利益な供述を内容に含むから、Pの尋問に加え、322条1項により、任意性と甲の署名押印が要求されるところ、本件実況見分調書にはPの署名押印しかないから、証拠能力は否定される。

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2009年新司法試験不合格答案再現(6.刑事系第1問:刑法)

そして刑法へ。最も恥ずかしいクソ答案です。メイン死因でしょうね。



4日目 刑事系第1問・刑法(100点)  問題

*得点:66.50/200(刑訴含む 4500位くらい)

第1 甲の罪責
1 AのカードからB社口座に200万円を振り込ませようとした点
(1)甲は、Aの口座から200万円を自らの支配するB社の口座に移そうとし、結果として80万円を領得している。この点につき、甲はAの口座の管理を任されていたため、業務上横領罪(刑法253条)と背任罪(247条)のいずれかが成立しうる。
(2)この点、両罪は法条競合の関係にあり、業務上横領の方が法定刑が重いため、物の領得行為として業務上横領罪が認められれば同罪が成立するから、その成否につき以下で検討する。本件では、①甲にAの口座につき業務上占有が認められるか、②途中で乙が甲の意図に気づいた点をどう評価するかが問題となる。
 なお、前提として、Aの口座に対する占有(預金の占有)が認められるかという問題がある。民事上金銭は所有と占有が一致するため、その占有は銀行にしかないとも考えられるが、現金であれば領得罪が成立し預金ではそうならないというのは不当であり、刑法上は預金の静的安全も保護に値するから、預金の占有も認められると解すべきである。
(3)業務上の占有があるか
ア 甲はAクレジットの貸金業務に関連してAのカードや通帳を保管しており、社会通念上継続的にされる活動に基づく管理をしているから、「業務上」の占有が成立しうる。
 それでは、甲にAの口座について占有が成立するか。Aと甲との間に委託信任関係が存在し、これに基づく占有が甲に成立しているかが問題となる。
イ この点、委託信任関係に基づく占有が存在するかどうかは、委託信任関係につき①甲が有する権限、占有の所在につき②甲がAの口座を管理している態様を検討することで決すべきである。これを本件について見ると、以下の通りである。
(ア)甲の有する権限
 甲は、Aからの厚い信頼に基づき、Aクレジットの主要な事業たる貸金業務につき、貸付内容の審査・判断から消費貸借契約締結、貸付実行に至る一連の権限を有している。また、資金管理面においても、現金出納、取引先に対する支払いのほか、Aの口座の預金出し入れやこれらに係る経理関係の書類作成・保管など、大きな権限を与えられている。
(イ)Aの口座の管理態様
 甲は、上記権限に基づき、甲が鍵を保持し管理している金庫の中に、Aの口座の通帳、届出印及びカードを保管することで所持していた。そして、これらの行使に際しては、甲の部下である経理担当の事務員を手足として用い、甲の指示により預金の出し入れをしていたが、Aのカードや通帳の出し入れは甲自らが行い、事務員には一時的に手渡されるだけであった。
 また、Aの口座の出入金が記録される経理関係の帳簿についても、甲の机の引き出しにおいて管理され、Aは甲の保管する帳簿やAの通帳につき収入支出の状況は確認するものの、その詳細な内容や正確性については甲を信頼し、他の書類とつき合わせて精査することはしていない。
(ウ)結論
 以上より、甲は業務に関連するAの口座につきAとの委託信任関係に基づく管理権限を与えられ、その管理態様も甲が自ら口座を管理支配しているといえるから、甲はAの口座につき委託信任関係による占有を有している。
(4)乙による故意の介入
ア 本件では、甲は乙を介して財物を領得しようとする、いわゆる間接正犯の形態を意図していたところ、途中で乙が甲の意図に気づき、自ら領得意思を発現させた上で120万円につき甲の目的に反し自身で領得し、結果的に甲は80万円だけを得ている。
 これにより、乙の故意によって振り込まれた金銭については甲による横領行為が認められなくなるとも思われるが、甲は現実に80万円を利得しているところ、この部分につき正犯として帰責させることはできないか。この点、①乙の行為の介入が甲の指示と領得結果の間の因果関係を切断しているか、②乙の故意に基づく領得態様が甲の故意とずれている点をどう評価するか、が問題となるので、以下検討する。
イ 因果関係の問題
 刑法上の因果関係は、条件関係の存在を前提に、結果をいかなる行為に帰責させるかという規範的な見地から評価されるべきであり、行為の危険性が結果に現実化したといえるかどうかで決すべきである。
 これを本件について見ると、甲は乙に対して上司としての立場からB社口座への振込みを命じており、これ自体がAの口座内の金銭が流出する結果を生ぜしめるものである。そして、乙が自らの判断で80万円をBの口座に振り込んだ行為も、甲の命令の範囲内であり、それを契機にされたことは変わらないから、甲の行為の危険性が現実化したものということができ、因果関係は切断されない。
ウ 甲の意図と結果との錯誤の問題
 甲が間接正犯を意図したところ、実際には乙の故意行為により領得結果が得られている本件では、甲の意図と結果との間に錯誤があり、甲の故意が否定されるようにも思われる。
 しかし、故意とは反対動機を形成しなかったことに対する非難可能性をいうと解されるところ、乙の故意行為の介入は、甲が領得結果を実現する上での因果関係についての錯誤にすぎず、結果について相違がない以上、甲の反対動機形成に影響を及ぼさない。よって、この点で甲の故意が否定されることもない。
エ 以上より、甲は80万円の領得につき正犯として業務上横領の罪責を負う。
(5)乙による120万円の領得行為についての罪責
 ここで、乙が甲に手渡されたAのカード及び通帳により120万円を引き出し、領得した行為につき、甲が背任罪の罪責を負わないかが問題となる。
 しかし、業務上横領罪(253条)は未遂処罰の規定がないところ、これは、業務上横領に該当する行為が未遂である場合には不可罰とする趣旨であると考えられ、甲が120万円を領得するに至っていない以上、さらに背任罪の成立を認めることは出来ないから、この点につき甲は罪責を負わない。
2 強盗を装って120万円の返還を免れようとした点
(1)甲は強盗を偽り、警察に対して虚偽の通報をしているから虚偽告訴罪(172条)の成立が考えられるが、甲には処分を受けさせる目的がなく、同罪の構成要件を満たさないから、これは成立しない。
(2)甲は、強盗を偽って120万円が不正に引き出されたことにつきAを騙そうとし、Aからの追及を免れようとしているから、利得詐欺罪未遂(246条2項、250条)の成立が考えられる。これにつき、①財産上不法の利益を得させたといえるか、②乙と共同正犯(60条)としての罪責を負うかが問題となる。
(3)①について、甲が強盗を偽ることでごまかそうとしたのは自身が領得していない120万円であるが、甲は乙に弱みを握られている関係にあり、120万円につき何とかすると約束していることから、乙に財産上の利益を得させる行為といえる。また、120万円は元々自身の横領計画に端を発してされた不正の出金であり、これが発覚すれば自身の得た80万円についても追及される可能性が高いから、その意味では自己が財産上の利益を得る行為とも言え、いずれにせよ同要件を満たす。
(4)ア ②について、共同正犯が処罰される理由は、2人以上が共同して互いを利用しあって犯罪を遂行することで法益侵害の危険性が増大することにあるから、共同正犯については、共謀にとどまる場合であっても、その成立が肯定されるべきである。そして、共謀共同正犯の成立を判断するに当たっては、①意思の連絡、②実行役割の重要性、③正犯意思の3つを検討すべきである。
イ これを本件について見ると、以下の通りである。
(ア)①について、甲は乙の依頼に基づき、甲に指示して強盗を偽装しており、意思の連絡が認められる。
(イ)②について、甲は自ら偽装計画を発案し、友人の丙に対して口裏を合わせるよう依頼したほか、乙を縛り上げて偽装行為の一部を分担し、さらに通報行為をしているから、重要な役割を占めている。
(ウ)③について、甲は120万円の不正隠蔽意図を有しており、それ自身がAからひどい目に遭わされることを避けたいとの動機によるものであった。また、甲の犯行は上司として支配する乙に指示する形でされており、甲には正犯としての意思が認められる。
ウ 以上より、甲には乙との詐欺未遂罪についての共同正犯が成立する。
3 結論
 甲には、80万円の業務上横領罪(253条)と120万円の2項詐欺罪未遂(246条2項、250条)が成立し、両者は併合罪(45条)の関係に立つ。
第2 乙の罪責
1 甲から受け取ったAのカードで120万円を引き出し、80万円をB口座に振り込んだ点
(1)乙は、自らAのカードを行使し、120万円を引き出して領得した上、80万円をBの口座に振り込んでいる。80万円の点については乙自身は領得しておらず甲に責任があるから乙に罪責は成立しないが、120万円について何らかの罪責が成立しないか。
(2)この点、乙は甲の命令によって、これまで知らなかった暗証番号などを知らされた上でカードを渡されたにすぎず、Aの口座に占有を有しているとはいえないから、横領罪の成立は認められない。そこで、雇用主たるAとの関係で背任罪(247条)の成立が考えられる。
(3)背任罪の成立には、乙が「他人のためにその事務を処理する者」といえなければならない。
 この点、事務処理義務については、法律関係に基づくもののほか、慣習に基づくものなどが広く含まれると解される。本件の乙は、経理担当として口座の管理に関わるものではないが、Aクレジットの社員として、雇用契約に基づき、上司甲の命令に適切に従い、会社のために口座預金の出し入れを行う義務を負うものであるから、Aのために預金管理事務を処理するものといえる。
(4)乙は、上記の通りAのための事務処理者でありながら、自己が120万円を領得するため、不正に気づいていれば出金すべきでなかったにもかかわらずその任務に反して出金行為をし、本人に財産上の損害を加えたから、背任罪の罪責を負う。
2 強盗を装って120万円の返還を免れようとした点
乙は、自己の領得した120万円の返還追及やAの攻撃を免れるため、Aを欺もうすべく強盗被害を装い、120万円の不正出金を隠そうとしたものであるから、利得詐欺未遂の罪責を負う。
3 結論
 以上より、乙には120万円につき①背任罪(247条)と②詐欺未遂罪の共同正犯(246条2項、250条、60条)が成立し、両者は異なる行為であるから併合罪の関係に立つ(45条)。

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2009年新司法試験不合格答案再現(5.民事系大大問:民法&商法)

続いて大大問。内容がしょぼいのに長いですね。



3日目 民事系大大問・民法&商法(200点)  問題

*得点:117.17/300(大問含む)

〔設問1〕
1 売買契約とは、当事者の意思の合致により成立する諾成契約である(民法555条)。そこで、売買契約の目的物が何であるかは、当事者の意思が何を目的としていたかによって決せられるものである(意思主義)。契約書の表示などは、当事者の意思を参酌する重要な材料ではあるが、それにより目的物が決定されるものではない。
2 そこで、本件売買契約の当事者XA間での意思内容を判断するため、契約締結までの経緯を検討すると、以下のような事実が分かる。
ア 本件売買契約の発端はY社がA社にした機械調達の依頼であるが、そこではY社担当のCの意向により、PS112の機械が目的とされ、A社もそのように認識した。
イ 上記交渉に基づき、A社はX社にPS112につき問い合わせており、Xもその在庫がある旨回答している。
ウ YA間ではX社のPS112についての売買契約が締結され、この時点でA社が負う調達義務の目的物はPS112と確定した。
エ 上記契約に基づきA社はX社に連絡し、PS112の購入を前提とした契約条件の協議がされた。
オ A社担当者は注文書の作成時に型番の誤記をしてしまったが、発注権限者への報告の際にはPS112の調達を内容とし、これに対して決裁がされている。
カ X社担当者は、誤記のある注文書を受け取った後も、従来の交渉内容を前提として、受注権限者への説明でPS112を目的物とし、その決裁を得ている。
キ X社からY社への納入において、PS122の納入に対しY社によりPS112が目的物であると指摘のあったところ、X社の受注担当者はPS112を目的物と認識しており、速やかに対応がされた。
3 以上より、本件売買契約の発端である注文内容がPS112であることはXAともに認識しており(ア~ウ)、以降誤記にも関わらず契約担当者とその決裁権限者の中ではPS112が目的物とされており(エ~カ)、誤記による注文を受けたX社においても、PS112が目的物と認識されていたことが分かる(キ)。
 よって、XAの間ではPS112が契約の目的物であるとの意思の合致が認められる。
4 (1)ここで、誤記の注文書により発注したA社から、錯誤(95条)を主張しうるかが問題となる。もしこれが認められるのであれば、A社は実際にはPS112を目的としていたにもかかわらずPS122を注文した錯誤により、本件売買契約が無効であることになる。
(2)ア この点、錯誤の成立要件は①要素の錯誤であること、②錯誤に重過失がないこと(95条但書)である。
 ①については、もしPS112をPS122と誤っていることが分かっていればそのような発注はしていなかったといえる重要な誤記であったこと、また一般的にもそれにより表示行為をしないという因果関係が認められることから、要素の錯誤といえる。
 一方、②については、A社担当者は型番が101から125まで少ない中で誤記をしてしまったこと、誤記の内容を反映した注文請書をX社から受け取っているのにこれを確認することなく契約を進めていることから、A社には重過失が認められる。
(3)よって、型番の誤記は本件売買契約の効力に影響を与えない。
〔設問2〕
1 小問(1)について
(1)①事実について(引渡しの有無)
ア 本件では、Y社は即時取得(192条)の成立を主張するものであるが、即時取得の成立要件として占有の開始が要求されている。では、Yは引渡しを受ける前にXまたはAから即時取得を成立させるような動産甲の占有移転を受けたといえるか、それともA社からの引渡しがされてはじめて占有移転を受けたといえるのか。即時取得に必要な占有移転の態様が問題となる。
イ この点、判例は占有改定によって即時取得は認められず、実際の引渡しが必要であると解する。しかしながら、この見解によれば、例えばAがBに動産を売ってなお手元にある同じ動産をXに売ったという事案において、BもCも占有改定しか受けていないから即時取得は成立せず、BがCに告知すればCは悪意となるので常にBに対抗できないという結果になり、後での取引者が不当に害される。
 そこで、占有改定でも一応即時取得は成立し、その時点で善意無過失の要件を備えれば即時取得は成るも、他の者に対抗して確定的に所有権を獲得するには現実の引渡しを受けねばならないと考えるべきである(折衷説)。
ウ もっとも、本件では動産甲の所有権及び占有はY社への引渡し時までX社に存在しており、YA間の売買契約以降にAからYへの占有改定がされた事情もないからである。よって、上記イのように考えた場合であっても、Yは2月15日の引渡しを主張立証しなければならない。
(2)②事実について(善意)
ア 即時取得の成立要件に際しては、善意が要件とされている。では、同要件を満たすためにはどこまでの事実を主張立証する必要があるか。即時取得に言う「善意」の意味が問題となる。
イ この点、即時取得が動産の原始取得という強力な効果を持っていることに鑑みれば、それを正当化するための善意には高度なものが要求され、所有権の存在につき疑いを抱いているという状況であっても善意が否定されると解すべきである。
ウ ②事実は、Y社の認識として、A社がX社から所有権を有効に取得していることにつき疑いを持たないということを示すものである。代金全額の弁済がされていないという場合、A社がX社から完全に所有権を取得していないとの疑いが生じるものであるから、これを否定するためにも、②事実の主張立証が必要であると考えられる。
2 小問(2)について
(1)③事実について
 ③事実は、X社がAY間の売買契約時点で動産甲の所有権を有しておらず、後日の契約によって所有権を取得するということについてのYの認識をいうものである。これにより、Aが所有権を取得したか確認する義務がYに認められ、Y社の過失を認める方向に働くとも考えられる。
 しかし、他社から調達する形で商品を販売する形態は一般に見られ、取引相手が引渡し時点までに有効に商品の所有権を取得していないということはむしろ稀であると思われる。A社の支払能力に疑問があるなどの事情がない本件においては、③事実からY社にAX間の取引の調査義務が生じるとはいえない。よって、事実③は、それ単独では過失の認定についてあまり意味を持たない。
(2)④事実について
 ④事実は、約束手形により残代金が支払われるということについての認識であるが、通常約束手形での支払であるというだけで支払いの確実性が失われるものではなく、これ単独でA社が所有権を取得していたか調査すべき理由とはならない。
 しかし、本件の約束手形は支払期日が4月30日と2ヶ月以上後になっているが、A社はY社が目的物の引渡しを受けたときに動産甲の代金として850万円の支払いを受けるものであり、それによってX社への支払いがされるのが通常である。そうであるにもかかわらず支払期日を先延ばしした約束手形による支払いをしているということは、A社の財務状況の不安定さを推認させるものといえる。そこで、本件でY社が④事実のような認識を有していたということは、Y社にA社を調査すべき義務が生じていることを示し、Y社の過失を強く推認させる材料となる。
〔設問3〕
1 不当利得返還請求の成否について
(1)X社は、Y社に対し、動産甲の使用料につき不当利得請求権(703条)に基づく請求をすることが考えられる。
(2)不当利得請求の要件は①X社に損失があること、②Y社に利得があること、③損失と利得の因果関係、④Y社の利得に法律上の原因がないことの4点である。このうち、①X社の所有する動産甲がY社に使用されたことで甲の価値が低減した点に損失があり、②Y社は甲の使用で利得を得ており、③両者は因果関係があることは明らかであるので、以下では④につき、Y社の動産甲の使用が法律上の原因に基づくものかを検討する。
(3)動産甲の所有権はAX間の契約によりXに留保されており、AY間の売買契約でY社が所有権を取得するものではない。そこで、Y社の甲使用が法律上の原因に基づくかどうかは、Y社が甲を即時取得したかどうかで左右される。甲が引渡しを受けた時点で善意であったかは本件事情からは明らかでない部分もあるが、X社としては少なくともYが無過失でないことを示せば足りるので、この点を検討する。
 Y社は、前記③事実を知っていたが、これだけでは過失を認定できないことは前述の通りである。また、④事実についても、これは引渡しがされた2月15日の5日後である2月20日に説明されたものであるから、即時取得の成立時における過失を導く理由にはならず、Yの過失は認められないようにも思われる。しかし、2月15日の引渡し時点においてX社は注文書の誤記により誤った型番の機械を納入しようとしており、Y社との間でトラブルになっているものであるが、Y社としてはこれによりA社が動産甲(PS112)を適切に取得していないのではないかと疑問を抱く理由があったと考えるべきであったといえる。そして、その時点でXA間の代金決裁や動産甲の所有権の所在につき調査すれば、所有権留保の事実が不明であっても④事実につき判明したはずであり、さらにそこから所有権の所在につき疑いを抱くことが可能であったといえる。
 よって、Y社には、動産甲引渡しの時点で過失があったというべきであり、即時取得は成立しないから、Yは所有権に基づかず無断で甲を利用したことになるから、その利得に法律上の原因はない。
2 いつからの使用料を請求できるか
(1)動産の使用料は、動産の果実である。果実については、悪意の占有者に対しては返還請求をすることができる(190条1項)一方、善意の占有者に対しては請求ができない(189条1項)ものであり、これは果実の不当利得返還請求においても適用されない理由はないから、Y社が所有権のないことにつき善意である場合、善意の時点ではその果実を請求することはできない。
 Y社は動産引渡しを受けた時点で善意であると考えられ、また2月20日に事実④を知らされた時点でも、所有権留保の事実を知らされておらずX社に取引経過の照会もしていない以上、この時点で悪意に転じたともいえない。
(2)しかし、本件では平成20年5月7日に、X社からY社に対して動産甲の返還請求がされており、遅くともこの時点でY社は所有権の不在につき悪意になったといえる。よって、X社は、190条1項より、5月7日からの使用料相当額を請求できる。
〔設問4〕
1 Z社は、長年X社の株主となっているから、取締役の合併契約締結行為や株主総会招集の差止めを請求することができる(会社360条1項)。
 差止めの要件は①法令や定款に違反する行為がされ、またはされるおそれがあること(360条1項)、②会社に回復することのできない損害の発生すること(同3項、X社は監査役設置会社)の2点であるので、以下それぞれ検討する。
2 法令定款違反の事由について
(1)合併比率の不当さ
ア 本件合併計画においては、その合併比率がX社の株主にとって不当な不利益となっている。このような合併を進めることは、会社の利益を害することにつながり、忠実義務(355条)及び善管注意義務(会社330条、民法644条)に違反する疑いがある。
イ (ア)しかし、会社は利潤をあげることを目的としており、そのための経営判断は専門的かつリスクを伴う決断を含むため、広く違法を認めることで経営者の判断を過度に萎縮させることは、かえって会社の利益とならない。そこで、取締役の意思決定については、①判断の基礎となる基礎を適切に収集・認識し、②それに基づいて経営として合理的な判断をしたものと認められる場合、その結果は違法とならないと解すべきである。
(イ)また、本件では取締役が事業全体の存続や従業員の雇用確保といった目的でD社との合併を決断しており、合併比率の不利益を受けるZ社との間に一種の利益相反関係があるので、会社の取締役としていかなる目的を優先すべきか、さらに検討する。
 この点、会社にとって事業継続や従業員の保護が収益増につながり、かかる目的の追求が優先されてもよいという見解もありうる。しかし、会社法は株主総会を会社の最高意思決定機関としており(295条)、取締役など会社役員は株主の手でいつでも解任することができる(339条)と定めている。そこで、会社の目的はあくまで株主の利益最大化であり、従業員などの利害関係人については株主に劣後するものと解すべきである。
ウ 以上を前提に、本件でX社取締役が進めている合併契約を評価すると、X社は財務状況が急激に悪化し、Z社との協力だけでは企業としての存続が危ないことが認められるから、D社の合併申入れにつき検討したこと自体は合理的であるが、そこで提示された合併条件に従うことは、事業全体の存続や従業員の雇用という点からは問題を解決するものの、株主にとっては不当な合併比率となっており、これを害するものである。X社としては、従業員のリストラやさらなる事業の売却・縮小など合併案より株主を害しない代替案を検討することは可能であったはずで、D社との合併以外に手段がないという事情は本件では見られない。
 よって、本件でのX社取締役の判断は、Z社などX社株主を不当に害する事実を適切に認識せず、あるいは認識した上で株主の利益を害する不合理な判断をしたといえ、違法というべきである。
(2)独禁法違反の点
ア 本件で進められている合併は、独禁法に違反するものであるところ、取締役は法令順守の義務を負っている(355条)ため、本件合併を進めることはこの義務に違反する可能性がある。
イ ここで、355条にいう「法令」が、いかなる範囲の法令を指すかが問題となる。この点、同文言を広く解釈することは取締役の行動を過度に制約することになるとし、これを会社法の規律に限定する見解もあるが、そもそも会社の取締役は日本国で適用される一切の法令につき遵守することが期待されているから、同条の「法令」とは、会社法にとどまらず一切の法令を意味するものと解すべきである。
 よって、独禁法に違反する行為も355条の法令違反にあたるため、そのような行為は会社法上も違法となる。
3 回復することのできない損害の発生
(1)「回復することのできない損害」とは、回復することが物理上不可能なものだけでなく、差止めがされず行為が実行されると回復に著しい不都合があり、完全に填補されないという場合も含まれると解すべきである。
(2)本件でX社がD社との合併を進めた場合、株主らは合併比率の上で大きな損害を受けるが、一旦合併し消滅した会社を復活させることは事実上容易でない。また、独禁法違反のまま合併を進めた場合、それにより合併後の会社に不利益が生じ、これも回復することは困難といえる。
 よって、本件合併を進める行為で回復することのできない損害が発生するものといえる。
4 結論
以上より、Z社は360条により株主としてX社取締役の合併を進行させる行為の差止めを請求することができる。
〔設問5〕
1 小問①について
(1)本問において問題となるのは、議決権行使書面及び委任状において賛否の明示がない場合に賛否の取り決めを定め、あるいは白紙委任する旨の規定が有効であるかどうかである。以下、それぞれについて検討する。
(2)議決権行使書面で賛成の表示とみなす規定の是非
ア X社は、株主5000人の会社であるから、298条2項より書面での議決権行使機会付与を義務付けられ、これに基づき株主総会参考書類と議決権行使書面を株主に送付している(301条、302条)。そして、本件での議決権行使書面では、議案につき賛否の表示がされない場合、会社提案の議案に賛成したものとして扱うと定められている。このような扱いが認められるか。
イ この点、議決権行使書面は会社から株主全員に交付されるため影響力が大きく、賛否の表示がない場合に会社提案に賛成させることは、Z社を不当に害するため認められないという見解もありうる。しかし、会社法施行規則66条1項2号は、議案の賛否に記載がない場合にその扱いを定めることができると定めており、X社の扱いは明文上も根拠があるから、かかる見解はとりえない。
 もっとも、明文で定めがあるとしても、かかる扱いが株主の合理的意思に反したり、会社を不当に害するという特段の事情があれば、そのような規定は例外的に無効となるものと解すべきである。
ウ そこで本件議決権行使書面を見ると、同書面には賛否の表示をしない場合の扱いが明記されていること、議案が一個しかなく、賛否を明らかにしない場合には当該議案への委任をしたことが合理的に推認できること、また株主総会参考書類による説明もされていることから、前記特段の事情はない。
エ よって、X社の取扱いは有効である。
(3)Z社委任状の白紙委任規定の是非
ア 一方、Z社の委任状は、①賛否の明示がない場合や②代理人名記載のない場合、③原案に対し修正案の提出された場合に白紙委任としているところ、かかる扱いは認められるか。そのような事情のある場合に、株主の合理的意思に反する扱いとならないかが問題となる。
イ ①につき、Z社に委任状を返送した場合、Z社の提案(合併への反対)に賛同しているといえるので問題はない。②の場合、Z社は自身を代理人として扱うことが考えられる。これは、Z社からの送付に対して返送された委任状の扱いとして合理的である。③の場合も、もし修正案のある場合に委任を望まない場合、委任状の交付をせず議決権行使書面に否決の表示をして提出することもできたのであるから、修正案が提出された場合にZ社が株主の立場からする賛否に委ねるという扱いも合理的意思の範囲に含まれると解することができる。
ウ よって、Z社の委任状における扱いも認められる。
(4)以上より、本問での議決権行使状況は、賛成が5000+29000+50+6000=40050個、反対が2000+2000+10000+5000+1000=20000個となる。
2 小問②について
(1)本問では、X社とZ社の両方に対して賛否を記載せず、結果として賛成と否定の両方の意思表示をしたことになる議決権の扱いが問題となる。
(2)ここで、会社法は313条で議決権の不統一行使について定めており、本件でも同条を類推適用することが考えられる。しかし、Fの行動はX社・Z社双方に対し全ての議決権を委ねており不統一行使とは言えず、Fが同条2項の通知をしているものでもないから、これは認められない。
(3)また、一般の意思表示と同様、X社に対する議決権行使書面の提出とZ社への委任状の交付の先後で判断することも考えられるが、本件でもいずれが先後かは不明であるから、この扱いも妥当でない。
(4)結局のところ、本件のFについてその議決権行使の意図は明らかでなく、その合理的意思を判断することも不可能というほかないから、その議決権100個は無効であり、賛成・反対双方から減ずるべきである。よって、本問では賛成39950個、反対19900個となる。
〔設問6〕
1 合併効力発生前
(1)Z社は、合併の実現を阻止するため、合併契約を承認した株主総会決議の取消ないし無効の訴えを提起することができる(831条1項、830条2項)。吸収合併においては消滅株式会社において合併契約の承認を受ける必要があるから(783条1項)、この承認決議を取り消すことで、合併の実現を阻止することができる。
(2)Z社は、決議無効事由として設問5で論じた事由を内容の法令違反として主張できる(830条2項)。また、臨時株主総会におけるEがZ社の提出した議長不信任動議などを無視した行為は、議長の権限(315条)の濫用であると考えられ、これを取消事由として主張することができる(831条1項1号)。
2 合併効力発生後
(1)一方、4月1日の効力発生日以降は、合併の効力を争うにはその6ヶ月以内に合併無効の訴えを提起するしかない(828条7項)。
 会社法が効力発生後に合併の効力を争う方法を手段・期間ともに制限している趣旨は、組織変更行為の影響の大きさに鑑みた取引の安全確保にあるから、無効事由は重大な法令違反を内容とし、無効とするほかない場合に限定すべきである。そこで、以下、本件合併に存在する問題につき、無効事由となりうるか検討する。
(2)合併比率の不当さ
ア 本件合併契約は合併比率が客観的に見て不当であり、正当な理由なくX社株主を害するものであるから、法令違反といえる。
イ では、これは無効事由となりうるか。この点、会社法は反対株主に対して株式買取請求権を認めており(797条)、その価格につき裁判所に申し立てる機会も与えている(798条2項)から、合併比率に不満を持つ株主はこれを通じてその損害を回復することができる。よって、合併比率の不当は合併無効事由にはならない。
(3)合併の独禁法違反
合併の独禁法違反は、合併内容の法令違反であり、合併をした後であっても重大な問題といえるから、合併無効事由として認められるべきである。
(4)株主総会決議の取消事由
ア 先に見た株主総会決議の取消事由(手続の法令違反)は、合併内容の違法をいうものでないから、それ自体を合併無効事由とすることはできないが、合併承認決議が取り消された場合、当該合併は783条1項の承認を欠くため重大な瑕疵を帯び、かかる手続の瑕疵は合併無効事由となると解される。
 それでは、決議取消しが効力発生日の4月1日になっても確定しない場合、これを効力発生後に無効事由として争うことはできないか。この点、合併承認決議取消しの訴えと合併無効の訴えは請求の基礎を同一にしているから、民訴143条1項による請求の変更により、決議取消しの訴えを合併無効の訴えに変更し、その上で無効事由として決議の違法を主張することができると考える。
 もっとも、決議取消しの訴えにより主張できない事由を合併無効の訴えにおいて主張させる理由はないから、決議取消しの出訴期間(3ヶ月。831条1項)の遵守が条件とされ、また831条2項の裁量棄却も類推適用されると解すべきである。

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2009年新司法試験不合格答案再現(4.民事系大問:民訴法)

続いて民事系の大問です。



3日目 民事系大問・民訴法(100点)   問題

*得点:117.17/300(大大問も含む 3500位くらい)

〔設問1〕
第1 Xの主張
1 ()Yが否認した場合
 建物買取請求権を認めるための要件事実は、①契約更新がないこと、②借地権者が買取請求をすること、の2点である(借地法4条2項)ところ、②の要件を認めるには、本件では借地権者であるYによる請求権行使が必要とされる。
 ここで、「Yが本件建物の買取請求権を行使した」旨の主張はYの訴訟外による買取請求権行使をいうものであり、上記②の要件に関わるものであるところ、Yが否認した場合、これを証拠調べなくして判決の基礎とし、建物買取請求権の成立を認めることはできない。
2 ()Yが援用したとき
(1)YがXの主張を援用した場合、これは建物買取請求権の訴訟外行使の事実についての自白(民訴179条)を意図していると思われる。自白が成立した場合、当該事実は証拠調べなくして判決の基礎とできるが、それでは本件のような援用により自白が成立するか、以下検討する。
(2)不利益要件
ア 自白が成立するためには、それが自己にとり不利益な事実であることが要件であるとされている(不利益要件)。ここで、不利益であるかの判断につき、立証責任の所在を基準として考えると、建物買取請求権の行使は土地所有者の請求に対する抗弁であり、その要件たる権利行使の事実は買取請求権者たる被告Yが立証責任を負うものであるから、その事実につき自白が成立することはYにとり不利益といえず、この点に対するYの自白は不利益要件を満たさず不成立であるとも思われる。
 しかし、不利益要件が求められる趣旨は、自白の拘束力の根拠が、不利益な事実の承認を内容とすることでそれを敢えて争わないという当事者の意思を尊重することに求められるところ、そうであれば不利益性の判断を立証責任の分担に求める必然性はなく、事実上の不利益があれば足りると解すべきである。
イ 本件では、Yによる建物買取請求権の行使は、Xの建物収去の請求を否定することにはなるものの、結果的にはYが代金と引き換えに本件土地を引き渡すことを余儀なくするものである。Yは第1回口頭弁論期日から一貫して本件土地の有効な占有権限の存在を主張し、土地明渡しを拒んでいるから、そのようなYにとって本件土地の引渡しにつながる建物買取請求権行使の事実は、事実上不利益なものということができる。
ウ よって、Yの自白は不利益要件を満たす。
(3)権利自白
ア もっとも、法律問題の判断は裁判所の専権であるから、自白の対象は事実に限られ、法律関係の存否など法律事項に関する自白(権利自白)は認められないとされている。そして、建物買取請求権の行使がされたという事実は、建物買取請求権の成立という法律関係の存在をいうものであるから、この点の自白は権利自白として認められないとも思われる。
 しかし、権利自白についても、①それが法律関係を成立させる前提となる事実についての自白といえる場合、②当事者が当該法律関係の意味につき理解していること、の2点が満たされていれば、裁判所の法律判断を不当に拘束するものとはいえず、当事者にとり不利益ともならないから、自白の成立を認めるべきである。
イ そこで本件でのYの自白対象を検討すると、Yが援用したのは「建物買取請求権を行使した」という事実であり、法律関係の存否にかかるものの、それ自体は建物買取請求権成立の前提となる事実(権利行使の事実の有無)といえる。
 また、建物買取請求権の行使要件は前述の通り①契約更新の不存在と②行使の事実の2つであるから、当事者がその意味につき理解した上で当該法律関係が形成されたというためにはこの2要件につき理解していると認められる必要がある。建物買取請求権は売買のように一般に理解されている法律制度とは言い難いが、Xの主張によれば、Yは弁護士から建物買取請求権の制度につき説明を受けており、不動産鑑定士の鑑定結果に基づく時価での買取請求を申し出ており、Xはこの申出に対して前記①②要件が問題となっていることを確認したところ、Yからそのとおりであると回答を受けたという経緯が認められ、XYともに建物買取請求権の要件効果につき理解していることが分かる。
ウ よって、Yの自白を認めることに支障はない。
(4)以上より、Yの自白は有効に成立するから、裁判所は証拠調べなくしてXの主張を判決の基礎とできる。
 なお、YがXの主張を援用した場合、それは同時に訴訟上での建物買取請求権行使の意思表示とも解しうるが、本件では題意から検討対象外とした。裁判所はこの点につき釈明権を行使することが望ましい(149条1項)。
3 ()Yが争うことを明らかにしなかった場合
 YがXの主張を争うことを明らかにしない場合、その事実を自白したものとみなされる(159条)。この場合、前述した2と同様の結論となる。
 もっとも、同条但書より、弁論の全趣旨からその事実を争ったといえる場合には、自白は不成立となるところ、本件ではYは一貫して有効な占有権限を主張して本件土地の明渡しを拒んでおり、賃貸借契約終了の正当事由についても争っているから、建物買取請求権の要件たる契約更新の不存在についても争っているものといえる。よって、弁論の全趣旨からYはXの主張(Yによる建物買取請求権の行使)を争っているといえ、159条本文による自白の成立は認められないから、証拠調べなくしてXの主張を認めることはできない。
〔設問2〕
1 小問(1)について
(1)Xは第1訴訟において、建物退去土地明渡請求を認める判決を受けており、さらに第2訴訟で建物収去土地明渡請求を求めるものであるが、土地所有権に基づく土地明渡請求の訴訟物はあくまで土地明渡請求権であり、建物退去(第1訴訟)と建物収去(第2訴訟)の相違は履行態様の違いにすぎないから、別個の訴訟物を形成しない。
(2)よって、Xが第2訴訟で得ようとしている権利は、第1訴訟でXが得た土地明渡請求権と同一であり、第2訴訟で新たな地位を獲得できるものではない。よって、時効中断など特別の必要性が認められない本件では、第2訴訟の訴えの利益は認められない。
2 小問(2)について
(1)判決の既判力は、主文に包含するものにつき認められるとされる(114条)。本件第1訴訟では、「本件建物の代金500万円の支払を受けるのと引換えに本件建物を退去して本件土地を明け渡す」旨の判決が確定しており、主文もこれと内容を同じくするものである。すなわち、第1訴訟の既判力は土地明渡しが建物買取の履行と引換えにされること、言い換えれば建物買取請求権が有効に成立したことについても及んでいるのである。
(2)しかるに、Xは第2訴訟において、建物買取請求権の無効を理由として建物収去土地明渡を求めるものであるが、かかる主張は建物買取請求権の有効性を内容とする第1訴訟の既判力に反しており、既判力により主張が遮断される。
 なお、第2訴訟でXが主張する建物買取請求権無効の理由は、第1訴訟の口頭弁論終結時以前にされた本件賃貸借契約の解除であり、第1訴訟で主張できたものであるから、既判力の時的限界の面からも、主張が遮断される。
3 小問(3)について
(1)小問(1)に対して(訴えの利益)
 第1訴訟と第2訴訟の訴訟物が同一であることは認めるとしても、それにより訴えの利益が否定されるものではない。Xが第2訴訟を提起したのは、第1訴訟において付された500万円との引換給付が不要であることを争うためであり、この点に訴訟物の存否とは別途に訴えの利益が肯定されるのである。
 第1訴訟で確定した引換給付判決は、いわゆる質的一部認容であり、原告の一部勝訴にすぎない。すなわち、Xが争っているのは訴訟物たる権利の実現に付せられた負担の存否であるから、この点につきXに不利益が生じており、債務不存在の訴えと同様、別個に訴えの利益が肯定されなければならない。
(2)小問(2)に対して①(引換給付の部分に既判力は及ばない)
 Yは、主文に付せられた引換給付の部分についても既判力が及ぶと主張するが、これは誤りである。なぜなら、既判力は訴訟物の範囲で認められるものであるところ、引換給付の部分は訴訟物ではないからである。引換給付は履行に際して負担が付着するかどうかという、訴訟物の存否とは別個の問題であるから、この点に既判力が及ぶものではない。
 これは、引換給付判決の理由となった建物買取請求権の成立が抗弁であることからも見易いことである。すなわち、抗弁により独立に生じた法律関係については相殺のような例外(114条2項)に限って既判力が認められているところ、建物買取請求権は独立の抗弁であるのに例外として認められていないのである。
(3)小問(3)に対して②(信義則上の遮断効も認められない)
ア 上記の通り、引換給付部分に既判力は認められないが、判例の中には、限定承認に基づく留保付き判決の後で無留保判決を求める主張が既判力に準じる効力によって否定されるとするものがあるので、本件でその適用がないことを示す。
イ 上記判決は、前訴で限定承認の無効につき争えたにもかかわらず争わなかったことを問題とし、手続保障のあったことと紛争の蒸し返しを防ぐという目的から信義則上の遮断効を認めたものと解され、その趣旨は理解できる。しかし、以下の理由により、本件ではそのような遮断効が認められる理由はない。
ウ 本件でXが第2訴訟を提起し、建物買取請求の無効を主張したことには、正当な理由がある。すなわち、Xは第1訴訟の終了までAY間の賃貸借契約が無効であったことを知らず、そもそも第1訴訟で建物買取請求権の前提の不備を知らなかったのである。そして、XがAからその旨を聞かされておらず、Aは兄のCとだけ相談していたことから、この不知につきXに過失があったともいえない。よって、Xにこれを争う機会が保障されるべきである。
 また、本件では、上記のようなXの不知がYにより作出されたという事情もある。すなわち、Yは過去の契約解除の事実を秘して、Aの他界後にあたかも有効な賃貸借契約が継続していたかのごとく振舞ってXに地代を提供し、その後の訴訟でも賃貸借契約が成立していたと一貫して主張し、さらに訴訟外においても過去の契約の有効性を前提に建物買取請求権行使を持ちかけている。これらは、建物買取請求権行使のためXを欺もうする行為とさえいえ、このようなYに対して主張遮断の利益を認める必要はない。
(4)小問(2)に対して③(主張可能性による既判力の制限)
 たとえ、Yの言うとおり引換給付部分に既判力が認められるとしても、既判力の実質的根拠は訴訟物につき主張立証が尽くされているという点に求められるから、主張可能性のなかった事実については例外的に既判力が及ばないと解すべきである。
 本件では、前述のような事情からXには建物買取請求権の無効を主張する可能性がなかったので、この点については既判力が及ばない。

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2009年新司法試験不合格答案再現(3.公法系第2問:行政法)

続いて行政法。憲法で2時間つかったので残り2時間でした。




2日目 公法系第1問・行政法(100点)  問題

*得点:135.54/200(憲法含む)

〔設問1〕
1 建築確認の取消訴訟
(1)Fらとしては、本件建築物の建築を阻止するため、EがAに対してした建築確認(建築基準法6条)の取消訴訟(行訴3条2項)を提起することが考えられる。
 本件では、審査請求の前置(行訴8条1項)や出訴期間(行訴14条1項)、建築確認の処分性に問題はないから、訴訟要件としてはそれぞれの原告につき原告適格(行訴9条1項)の有無が問題となる。
(2)原告適格の評価
ア 原告適格は、取消訴訟が国民の権利救済及び行政の適法性担保を目的とすることから、そこから外れる訴訟の乱発を防ぐために設けられた要件である。
よって、原告適格は、処分により法律上保護された利益を侵害され、または必然的に侵害される者に限って認められるが、「法律上保護された利益」には、法律が当該利益を一般的公益の中に吸収解消させるにとどまらず個別的に保護する趣旨である場合も含まれる。その判断に当たっては、処分の根拠法令の文言だけでなく、関連法令も含めた一連の法体系の趣旨目的を考慮すべきである(行訴9条2項)。
イ そこで、本件確認の根拠法令たる建築基準法のほか、目的を共通とするB県中高層建築物の建築に係る紛争の予防と調整に関する条例(以下「紛争条例」とする。)につき、その趣旨目的を考察すると、以下の通りである。
(ア)建築基準法は、1条において国民の生命、健康及び財産の保護を目的に掲げ、そのために、大規模建築物につき耐火基準への適合を義務付け(21条)、建物敷地と道路の関係につき避難や通行の安全の見地から規制を設けている(43条)。
(イ)紛争条例は、1条で地域の生活環境維持向上を目的としており、生活環境に及ぼす影響についての紛争を関心対象としている(2条2号)。
(ウ)以上より、建築基準法と紛争条例は、近隣の住民に対し、建築物から生じる災害から生命、健康及び財産への被害を防ぐことにつき、個別的な保護を与えているものと解される。
ウ そこで進んで、本件原告であるF~Iの原告適格につき検討する。
(ア)Fは、本件土地から10メートルの地点にあるマンションに居住しており、本件建築物の災害により生命や健康が害される危険があるから、原告適格が認められる。
(イ)Gは、Fの居住するマンションの所有者であり、本件建築物の災害から生命や健康が害されるものではないが、かかる災害により所有物たるマンションに財産的被害を受けるから、原告適格が認められる。
(ウ)Hは、本件土地から500メートルの地点に居住しており、居住地において危険を受ける者ではないが、本件建築物の至近にある本件児童室に毎週通い、本件土地について近隣の住民といえる関係を持っている。そのため、本件建築物の災害により生命、健康に被害を受ける可能性があるから、原告適格が認められる。また、Iについても、Hの父親として、Hの生命や健康に重大な利害関係を有するから、原告適格が認められる。
エ よって、本件ではF~Iの全員に原告適格が認められる。
(3)以上より、Fら原告は、B県を被告とし、B県の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所に対し、本件確認の取消しを請求できる(11条1項、12条1項)。
2 建築物完成に備えた執行停止
(1)本件確認の取消前に本件建築物が完成し、完了検査を経て検査済証が交付されると(建築基準法7条5項)、その後で建築確認が取り消されても検査済証が失効するものではなく、また建築確認の不存在が建築基準法9条の是正措置を義務付けるものともいえないため、本件建築物の完成によって本件確認の取消訴訟の訴えの利益は消滅する。
 そこで、原告としては、本件建築物の完成を防ぐため、本件確認の効力の執行停止(行訴25条2項)の申立てを検討すべきである。執行停止の積極要件は、①重大な損害の存在、②緊急の必要、③効力停止につき補充性(以上行訴25条2項)であるから、以下これらにつき検討する。
(2)ア 重大な損害の判断では、回復の困難性や損害の性質・程度などを考慮すべきである(行訴25条3項)。 
 これを本件について見ると、防災上問題のある本件建築物で火災などが発生すれば周辺住民の生命身体を侵害し、取り返しのつかない事態となるから、本件確認は重大な損害を生じさせるものといえる。
イ また、かかる損害の重大性や、本件確認の存続により本件建築物が完成してしまえば、その危険性を是正することが著しく困難となることから、執行停止の緊急性も肯定される。
(3)本件確認はさらなる執行やこれに続く手続を予定するものでなく、建築を中止させるには本件確認の効力を停止するほかないから、補充性も肯定される。
(4)公共の福祉への影響についても念のため検討すると、本件では未だ建築物は完成しておらず、これを中止させても大きな損失はない。
(5)よって、原告らは取消訴訟に加え、本件確認の効力の執行停止を申し立てることができる。
〔設問2〕
 以下、本件確認につき主張しうる違法事由につき、それぞれ、①違法事由とその根拠、②Fに主張適格があるか、③違法事由が認められるか、の順で検討する。
1 本件道路の瑕疵
(1)違法事由と根拠
ア 道路と敷地の接する長さの不足
 本件建築物は延べ面積2万1643平方メートルであり、建築基準法43条2項及びこれを受けたB県建築安全条例(以下「安全条例」とする。)の適用を受けるところ、安全条例4条1項によれば、本件建築物は敷地と10メートル以上の長さの道路と接すれば足りるとされており、これによれば、30メートルの長さで本件土地と道路が接している本件では問題はないとも思われる。
 しかし、同項は、消防活動や避難のために建物の規模に比例した長さの周辺道路への接続を要求する趣旨に出たものと解されるところ、同条は3000平方メートル以上の建築物につき一律に10メートルの長さで足りるとしており、上記の趣旨に反する。本件建築物の延べ面積と同条の表から比例的に考えれば46メートル以上の長さの接続を要するといえ、本件建築物には実質的に安全条例に反する違法がある。
イ 道路幅員の不足
 本件建築物は延べ面積3000平方メートル以上、高さ30メートルであるから、安全条例4条2項の適用を受け、幅員6メートル以上の道路に接する必要がある。これは、防災上、消防車などの十分な活動を可能とする必要性に基づく規定と解される。
 しかるに、本件道路の幅員自体は6メートルであるものの、その道路に至る入り口に遮断機が設置されている。非常時に遮断機が上げられるという保証がないこと、上げたところで3メートルしか通行幅がなく車両の進入が妨げられていることから、防災上の必要性との関係で実質的に必要な幅員の道路が備わっているとはいえず、違法である。
(2)Fの主張適格
ア 行訴10条1項は、自己の法律上の利益に関係ない違法の主張を禁じている。同項の趣旨は、取消訴訟が権利救済の目的であることから、その必要性を超える主張を審理の遅延などにつながる無用なものとして制限することにある。よって、「自己の法律上の利益」の判断基準は、違法事由との関係での原告適格の判断と共通する。
イ そこで上記違法事由を見ると、本件道路の瑕疵は防災上の危険につながる違法であり、近隣に住むFにつき法律上保護された利益といえるから、Fに主張適格が認められる。
(3)違法が認められるか
ア 接する長さの不足については、規模に関わらず一定以上の長さで接していれば避難や消火活動に支障が生じるとは考えられない。安全条例4条3項も、知事による裁量を認めており、条例上要求される10メートルを大きく上回る30メートルの接続に支障がないとする判断に特段の不合理も認められない。よって、この点に違法はない。
イ 幅員の不足については、安全条例4条2項の趣旨が防災の面にあると考えられる以上、その幅員は実質的な通行可能性に求められるべきであり、遮断機によって最大3メートルの通行幅しかない本件道路は同項に違反する。
2 駐車場出入口の違法
(1)違法事由と根拠
 本件建築物は本件児童室の専用出入口から約10メートルの地点に地下駐車場出入口を設けており、安全条例27条4号に違反する。
(2)Fの主張適格
 安全条例27条4号は児童など弱者の安全を保護する規定であるところ、Fは児童や老人など弱者ではなく、自動車の走行により危険を被るものでないから、この点につき主張適格を有さない。
(3)違法が認められるか
 この点、本件児童館が同号の「児童公園、小学校・・・その他これらに類するもの」に該当するかが問題となるが、これは前述した同号の趣旨から、児童の利用が予定されるかどうかで判断すべきである。
 本件児童館は、児童関係の図書が集められ、児童用の座席やトイレ、遊び場など児童の利用しやすい環境が整っていることから、児童による利用が予定され、その専用出入口も児童による通行が見込まれる。よって、その専用出入口は同号の対象であるといえ、地下駐車場の収容台数の多さから、交通の安全上支障がないとはいえず、安全条例27条の除外事由も認められないから、本件建築物は同条に違反する。
3 手続上の違法
(1)違法事由と根拠
 紛争条例6条1項によりAは説明会の開催義務を負うところ、本件では形式的に説明会が開催されたものの、質問の機会もなく情報開示も不十分なため、実質的に開催義務を満たしたとはいえず、同項に反する。
 また、同条例が周辺住民の利害を考慮している以上、このような場合には行政手続法10条による公聴会を開催しなければならないというべきであるが、知事にはこれを怠った違法がある。
(2)Fの主張適格
 Fは本件建築物の近隣関係住民であり、紛争条例により説明を受ける権利があるから、この点につき主張適格を有する。
(3)違法が認められるか
ア 上記違法は手続の瑕疵に存する違法であるが、手続瑕疵による取消しをしても再度同様の処分がされるだから、理由附記など重大な手続の瑕疵を除き取消事由とならないとの見解もある。しかし、これは手続の価値を軽んじ、裁判所による判断代置を安易に肯定するものであり支持できない。
そこで、当該手続の趣旨が国民の権利保護を目的とするものであれば、その正しい履践を保障するため手続瑕疵による取消しを認めるべきと考える。
イ 本件では、Aは実質的に住民への説明義務を果たしておらず、紛争条例6条1項に反する。同条例は近隣住民の健全な生活環境保護を目的としており、住民には説明手続が保障されているといえるから、Aの義務違反は取消事由に当たる。
 また、紛争条例3条及び6条2項から、Aが説明会を有効に開催しない場合、知事は適切な是正措置として、行政手続法10条の公聴会開催が条例上義務付けられると解すべきであるから、この点で知事が公聴会を開催しなかった点も違法というべきである。

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眠れる豚

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2009年度新司法試験で討ち死にしてしまったため、再チャレンジのために淡々と勉強してきた法務博士(無職)。2010年の試験では何とか合格することができました。

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